
補足資料


PROJECT MEMBER
回遊する風景 このプロジェクトは、Havas Events Shanghaiの移転に伴い、上海の旧フランス租界に建つ瑞金ビルディング内に計画された。1986年に建設されたこの建物は、緑豊かな公園や、樹齢100年を超えるプラタナスの並木に囲まれた穏やかなエリアに属している。 彼らのオフィスからの眺めは、周辺の豊かな都市環境を望むパノラマのようであったが、低く抑えられた天井は、水平に広がる美しい眺めを強調するとともに、少し窮屈な印象を与えてもいた。 あらゆる業種のイベント企画からその設営監理までをこなすクライアントチームは、計画当初から彼ら自身が求めるオフィス環境に対してきわめて自覚的であった。彼らが求めていたのは、チーム内でのコミュニケーションの円滑化を図るため、開放的かつ流動的、そしてときには個別の作業に集中できるような、そんな場所であった。 まずは既存の天井が与える圧迫感を軽減するために、オフィス中心部の天井に大きな「孔」をあける。それによって生まれた異なる高さを持つ天井は、ワークスペースと動線部をゆるやかに区分する。前者ではダークグレーの天井と床材によって空間の高さをぼかし、後者では元の天井高さを維持することで、水平方向の動きを促し、天井に沿った環状の動線をつくりだす。 オフィスの周縁に配置された「フレーム」の形式は、基本的にはどれも同じでありながらも、それぞれのプロポーションや設えは少しずつ異なっている。そのわずかな差異は、フレームが持つ見た目のシンプルさや統一感とは裏腹に、日常における様々な行為に働きかける。あるときは作業への集中を促し、またあるときはチームの議論を見守る。やさしい陽が差し込めば、ゴロンと寝そべりたくもなるだろう。そういった行為を内包するフレームと、開かれたワークスペースとの間の行き来は、日々の営みにメリハリを生む。 モノから私たちへの視覚的、あるいは身体的な働きかけは、使い手の想像力を掻き立て、相互的な関係を生んでゆく。日々何気なくオフィスを歩いていると流れてくる「枠取られた風景」は、映画のコマのように、つながり、連続し、回遊し始める。