
上田商店は大阪では有名なジビエのお店であり、今回はその千日前店の計画である。 本計画の敷地は大阪の中でも色濃く、行きかう人たちもいわゆる“大阪らしい”と感じられるような場所で、店舗の入れ替わりも激しい。居酒屋の横にはネオンが光っていたり、高級な鮨屋があったりと、その調和がとれていない継ぎ接ぎだらけのような表情が、この場所の独特な空気感を醸しだしている。 そんな混沌とした環境の中で完全予約制のコースのみを扱うジビエ焼肉店の計画である。街を歩いてみて初めに感じたのは、ただ単純に高級な店構えをしてもこの場所・地域の持つパワーには負けてしまい、埋もれてしまうのではないかということだった。 この場所のもつ空気感を中に引き込みつつ、店自体も独自の空気感をも持てるような場所をつくることを空間づくりの軸においた。 テナント事態も独特な表情をもっており、全てを一新してしまうのではなく、既存の表情を残しながら、コントラストを意識し、新たな要素は緊張感をもって挿入することを意図した。新規で設えた床の黒いタイルには外のネオンの光が反射させ、独特な世界観を作り出すなど、周辺の空気を取り込むことで、まるで街の延長にあるようで、かつ個性のある空間とした。 一方で、焼肉屋ではそれぞれの席に対してフードが必要となり、その配置計画が空間を大きく左右することから、空間を決定づける象徴として昇華させることで、焼肉店だからできる空間の軸を作ることを考えた。 細長い平面の形状から、中央に奥に延びる大きなテーブルを置き、その上部にフードをまとめ、その周囲を乳半のアクリルで覆い上下の間接照明を仕込むことで、大きな行燈照明がこの店のアイコンとして浮かび上がる。ぼやっと照らされた店内が独自の品と色気を醸し出し、居心地の良い時間が過ごせるような空気づくりを目指した。