関内の集合住宅

ビルディングタイプ
共同住宅・集合住宅・寮

DATA

CREDIT

  • 撮影
    矢野紀行
  • 設計
    キー・オペレーション
  • 担当者
    小山光
  • 施工
    藤木工務店
  • 構造設計
    構造設計工房デルタ
  • 設備設計
    comodo設備計画
  • HPCコンサルタント
    細矢 仁

関内駅から徒歩5分の不老町の交差点に面する角地に計画された集合住宅。 この敷地には元々、「不老町2丁目第一共同ビル」という宮内建築設計による小さな県公社共同ビルが建っていた。交差点を挟んで反対側には横浜文化会館のPFI再整備事業としてメインアリーナの工事が進められており、近くの教育文化センター跡地には関東学院大学のキャンパスも建設されていて、エリア全体が大きく様変わりしてきている。 このプロジェクトでも既存が4階建てだったが、11階建てのマンションとして計画され、22-25m2程度の小さめの面積の住戸が集まる投資用の賃貸住宅として分譲される。アリーナの正面に位置することもあり、建物全体をファサードでアピールする事も求められた。 多くのマンションは各住戸からの効率の良い避難のため、戸境壁を蹴破って避難ハッチを共有できる様に住戸の前面に連続するバルコニーを設けている。しかしながらファサードの意匠としてはバルコニーを前提としなければならず、特に小さな住戸が並ぶこの集合住宅では、戸境壁が2.9m毎に必要になるため、ファサードで小さな住戸がことさらに強調されてしまう。 また、オーナーが一棟丸ごと所有する小規模な集合住宅であれば、バルコニーを無くしても、空調の室外機はまとめて屋上に設置できるが、分譲の場合、空調機は個々の管理になるため、室外機置き場としてもバルコニーは必要である。香港の高層集合住宅のように、室外機を壁面の架台に設置する事も可能だが、やはりメンテナンス時の安全性を考えるとバルコニーが望ましい。 防火帯建築は下駄ばきアパートの構成で1Fに店舗が連続するものが多かったせいか、ファサードの開口レイアウトも水平性が強調され、佇まいが落ち着いたものが多い。また角地の場合は出隅も開口が連続して、水平性が連続している。 このプロジェクトでは、各階のスラブを前面まで持ち出して水平ラインを強調する事で、水平性を強調して、近隣の防火帯建物に馴染ませる様にしている。また、バルコニーで小さな住戸ユニットが強調されず、ファサードを大きな面として表現しつつも、内部から感じる開放感を失わない様にするために、これらの水平スラブの間に縦糸の様に薄いコンクリートパネルを配置した。戸境部分には区画を区切るための奥行きの深いパネル、それ以外の部分にも様々な奥行きのパネルをランダムに設置する事で、戸境を目立たせないようにしつつ、ファサード全体をリズミカルな面として表現した。 各住戸が小さい羊羹型の平面となっているため、角地のコーナー部分の東側に住戸の側部の面が出てきてしまうが、こちらもバルコニー前面のパネルを側壁側にも回す事で、ファサードを水平に連続させている。 このコンクリートのパネルはHPCパネル(ハイブリッド・プレストレスト・コンクリートの略称)というもので、HPC沖縄で開発された超薄肉コンクリートパネルだ。厚さ40mm という薄さを実現出来たのは、鉄筋の代わりにカーボンファイバーを使用して、薄くても中が錆びる事を防ぎ、ワイヤーでストレスをかける事でひび割れが無いようにしているためである。 スラブの上下にこのHPCパネルを金物で固定している。外壁、軒裏、手すり、室外機、給湯器など、スラブの端部とHPCパネル以外の外装の要素は全て黒くして、スラブとその間のパネルだけを強調した。 このファサードに正対すると、パネルはその薄さのために糸のように細い要素として見え、周りの空気を繊細に分節するような緊張感がある。角度をつけてファサードを見ると、様々な奥行きのパネルのコンクリートしての素材感も現れて、軽快さと荘厳さが同居したファサードとなっている。一日の中の日の光の当たり方でその表情は刻一刻と変化していく。

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物件所在地

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