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MEC Industry 鹿児島湧水工場は2022年に稼働を開始した木材加工工場である。今日の地方産業にとって、「働く環境」づくりは重要なテーマであり、とりわけ工場にあっては、かつての就業環境・労働条件のイメージからか、地元からの就職希望者が少ないことが課題となっている。これに対し、当工場においては、働く人の観点に立った一連の環境づくりにより「地域から愛される工場とすること」が目指された。これは、企業の競争力を高めるだけでなく、魅力ある就業環境による安定した雇用の創出、地場の林業の振興といった地域全体の活性化にもつながる、地方における地域と工場の新しい共生のあり方を示すものとなった。 一般の工場では、「自社製品の実際の使われ方」を知る機会がなく、製造に特化した施設となることも多い。本工場では、自社の木製品を髄所に用いることで、働く人びと自らが製造に携わる製品を日常的に体感できるデザインとした。 また、広大な工場では多職種の社員が広範囲に点在して作業するため、チームの一体感が生まれづらい状況がある。そこで、全ての社員が利用する動線を集約した「木の道」を計画し、その道沿いに事務所や食堂を配置することで、自然に顔を合わせられる関係性をつくり出した。 この動線の中心となるのは大階段のある吹き抜け空間である。多面体構成の大壁面へ使用した杉の無垢板材、スチール手摺に編み込むように取り付けた化粧角材、トップライトから柔らかく光を取り入れる木ルーバーなど、多様な木製品をひとつの空間に統合した。社員全員が日常動線として使用するこの空間が、社の理念を体現する象徴的空間となっている。夜間には内部照明により木質空間が浮かび上がり、「木の道」そのものが工場全体を照らす照明として機能する。