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京丹後のホテルKISSUIENの大規模改修 ―1Fエントランス― この施設は、もともとはホテルではなく宴会場「吉翠苑」からはじまりました。多くの人が一度に集まれる場所がほしいという地域の人の願いをかなえるために生まれ、長い年月をかけて愛されてきた場所です。現在はホテルの宿泊以外にも結婚式の披露宴、法事や地域の会合などに数多く利用されています。 これまで何度か増改築を繰り返してきた既存の建物は、統一したデザインコードがなく、奥まったわかりづらい場所に受付カウンターが位置しているなど、様々な問題が見受けられました。 そこで、受付カウンターをロビーの中心部に移し、ロビー・既存レストラン・新設バンクベッドルーム棟をつなぐように新たにテラスを挿入し、KISSUIENの新たな顔となる構えを創出することを考えました。石のテラスは手描きの曲線形状に孔を穿ち、木を植え、人々が集うことのできる小さな森をつくりました。 ―2Fコンセプトルーム― 既存の客室空間には京丹後の環境を切り取る2つの孔が空いていました。 この2つの孔を京丹後の環境と内部をつなぐ接点と考え、2つの抽象的なフレームと 季節や時間帯によって移ろう風景を切り取るスクリーンを重ねました。 2つのフレームは空間に奥行をもたせると同時に多中心的な居場所をつくります。 断片的な記憶の集積が全体を織りなすことで ここにしかないリズム、空気を全体に纏わせることを目指しました。 また、ホテルの名前の由来である [吉] [翠] [苑] の3文字をテーマに3室のインテリアをそれぞれ特徴づけています。 ―3-5F モデレートツインルーム― 3-5Fの客室では既存空間に空いた孔に対し、京丹後の自然と接続するためのレイヤーとなるデイベッドを挿入することを考えました。 デイベッドは滞在空間を内外へ拡張し、寝転がったり仕事をしたり荷物を広げたりなど滞在中の活動により自由さを与えています。限られた面積の中で多様な過ごし方ができる空間を目指しました。 またインテリアは「京丹後の玄関口」として今回新たに挿入された1Fテラスの翡翠色をキーカラーとして各階ごとに特徴づけをしています。 ―6F 大浴場― 漏水により使用が中止されていた大浴場の再生計画を行いました。 脱衣所の家具は3-5Fの客室と同じシナ材を用い、空間を圧迫しない低めのロッカーを中央に据えることで回遊性をつくり、適度な人との距離感を保てる設計としました。 大浴場の壁面には今回の全体計画のキーカラーである翡翠色のタイルを全面に纏わせ、[1Fテラス~2-5F客室~6F大浴場~周辺に広がる京丹後の自然]を立体的につなぐ構成としています。 全体の計画を通じて、既存の建物が持つ多様な要素を受け入れつつも、新しい価値を創出することを目指しました。歴史の中で少しずつ変化をしてきたこの場所が、これからも京丹後に暮らす人々の拠り所となり、「大切な記憶に残る場」となることを願っています。