




計画地は千葉県市原市の閑静な住宅街。 教職に就く30代夫婦のための住宅。 周囲から1mほど上がった敷地に焼杉の黒い外壁が静かに立つ。 勾配屋根の高さを抑え、南北に設けた吹き抜けが、光と風を室内に導きながら町並みに調和する家となった。 控えめな開口が道路からの視線を遮り、家族のプライバシーを守る。 設計当初からあった要望は、音楽科の教員である建主が家でいつかピアノ教室を開きたいというものであった。 生活の中にピアノがある暮らしと、生徒とのプライベートな距離感。 その相反する課題を生活空間から少し床の高さを下げた土間で解決した。 ピアノが置かれた土間は、家族の生活と生徒たちの学びを分かつ境界となり、同時に日常生活の一部として存在する。 ダイニング、リビング、土間が雁行して緩やかにつながることにより、奥行きのある空間を生み出し、各所の開口からやわらかく広がる光が部屋の輪郭を浮かび上がらせている。 ピアノを置いた土間は、勾配天井で気積を大きくすることで、豊かな響きを生む空間を実現する。 「将来、親子の距離のとり方が変わる時期になったとしても、離れたところからでも互いに気配を感じられる家であってほしい。」教育現場で働く建主のその言葉は、家族をはぐくむ家として大切なことと捉えた。 吹抜けや開口が、家族の気配をつなぐ糸となり、やわらかな光と空気を家全体に行き渡らせる。
