
PROJECT MEMBER
設計者の自邸兼事務所と併せ、新たな地域拠点として飲食店、店舗などを内包した住宅である。 敷地が位置する目白駅近隣は、昔は武家屋敷や作家のアトリエ付き住居が多い地域であった。しかし今では目白駅に隣接した目白通りから20mのみが商業系の地域、それ以外のほぼ大半が住居専用地域となっており、用途地域によってまちの構造が分断されてきた。また、必然的に店舗の可能な物件の絶対数が少なくなり店舗物件の家賃が上がり、チェーン店や規模の大きな店舗は多いが、個性を感じ行きたくなる場所は少なかった。 この住宅はその目白通りから1本入った公道と私道の角に位置する第1種低層住居専用地域にある。約10年この地域に住んできた私たちは、ここに自邸をつくるにあたり、店舗と事務所を併設した兼用住宅として計画し、自分たちのまちに欲しい場所をつくろうと考えた。当初は他の店舗事業者にテナントとして貸すことで住宅ローンの返済に役立てることも考えた。しかし貸すと、私たちがほしい地域の拠点としてまちに回遊性を生むような場ではなくなってしまうかもしれない。であれば、今まで設計活動で繋がったネットワークを集約することで、私たち自身で店舗をつくることができないかと考えた。住むことの延長に働く場所や店舗をつくり、その店舗は私たちが住むうえであってほしい場所として住人として利用する。そうすると、このまちに敷かれた用途地域による構造にささやかな変異を起こせるのではないか。それを真似する人がいれば、少しずつまちの中に新たな循環を生み出していけるかもしれない。 店舗は飲食店とし、私たちが設計したカフェを運営する方に立ち上げを支援してもらったり、同じく設計した酒屋からワインを仕入れるなど、この自邸を機に関係性を編み直すことで、設計者と発注者という一方向的な関係性からいくつもの系が交差するネットワークを生むことを考えた。 この計画にあたり、まずは容積率いっぱいにヴォリュームを立ち上げ、都市の形態的な文脈や、隣地の隙間や開口部の有無、高さ関係など近接する周辺環境に影響されながら開口部やテラスを設けた。また、工事による廃材や前の家で不要になったものの再利用によるモノの循環、素材を連関させていくことなど、さまざまな関係を組み立てた。 そしてこの住宅は、積層する建築だが、複数の出入り口や階段を設け、多様な使い方を可能にする余地を与えた。内部が一体的に繋がっていることで、今後事務所部分を個室として使ったり、打ち合わせスペースを店舗として使ったりと、役割を変えて行くことも想定できる。 この住宅を通して考えたのは住みびらきのような物理的、機能的な住宅への他者の関与や行為からもう一歩先の、住み手のネットワークを介した自律的な生活圏の生成や、住むということを中心に、あらゆる事物のスケールを横断しながら編み直していくことで、少しでも自分の住むまちに能動的に関わり、住み方そのものを問い続けていくことではないかと考えている。