
PROJECT MEMBER
頂部4層を木造とした12階建ての複合商業ビル。380年ぶりに東寺の五重塔を超え、木造建築として日本一である56mの高さをもつ。アノニマスな鉄骨造のオフィスビルにちょこんと木箱が乗ったような構成をしており、木構造部分は認定工法を使用せず汎用的な在来工法を用いている。都市の過半を占めるビルディングタイプである中小規模の民間商業ビルを木造化し、建築による脱炭素社会の実現を目指している。「SALON91°」は頂部4層の木造階および1階の飲食店およびサウナ施設の商業施設の総称であり、ビルオーナー自身が共同経営しつつ複合商業ビルとしてのブランディングを行っている。 江戸時代の町割りが基礎となった銀座の路地を立体化し、高層階にも人の流れを生み出すことで、街の新たな活気づくりの一助になることを目指している。建築工事である「銀座髙木ビル」の設計監理と並行するように6フロアある「SALON91°」の内装設計を行ってきた。一般的にはAB工事、C工事と工事区分が分かれることで建築設計と内装設計が分離され、建築と内装ひいては体験と都市との繋がりが分断されることが多い。本件においては弊社が一貫して設計を請け負うことで、ビルオーナーや店舗オペレーターの思いを統合し、複合的な体験とサービスを提供できる商業施設となっている。各店舗の内装についても、木材を様々な風合いで用いることで、都市から建築そして内装まで連続感のある空間としてデザインした。外装材である東京多摩産の杉材を中心に、天然の素材感を丁寧に表現することを心掛けた。「本音で過ごそう、銀座で。」をコンセプトとした施設であることから、表面的に着飾った広告的な銀座のイメージではなく、土、石、木、水、風、光、音など、日本人が古くから大切にしてきた自然素材と向き合う空間体験が可能な施設を目指している。都心のビルでは体感が難しい自然素材のあたたかみを肌で感じてもらい、人が行き交い集うことで、より豊かな場所にしていきたいと考えた。 【 1階 フレンチバルギンザ 】 銀座の外堀通りに面するカジュアルに立ち寄ることのできる、路面店のフレンチバル。浮造りした杉材に金属塗装を施し、その羽目板を縦方向に重ね張りした。エントランス側からみると木目が消え、金属質な凹凸が浮き上がり、キーストンプレートのような工業的な表情を見せる。一方、店内側に入ると浮造りの木目が際立ち、杉材の温かみのある表情を生み出している。鉄骨と木造のハイブリッドである建築に合わせ、無機物と有機物の間のような素材感をつくった。格式高いフレンチとカジュアルなバルの間にある、架け橋のような店舗を目指した。 【 9階 PLEIN GINZA 】 南青山から移転したビストロplein銀座本店。建築構造材である杉材とコンクリートスラブ、また厨房機器のステンレスを活かした内装を考えた。オープンカウンター型のレストランにおいてどうしても現れるステンレスの厨房機器。料理をつくり、運ぶための機能性を重視した無骨な工業的素材感を如何に親しみのある客席と統合できるかを検討した。大きな要素である天井を、針葉樹構造用合板を浮造りに仕上げた状態で金属塗装をかけ、金属のような木材をつくった。 Pleinという店名は「満たす」という意味がある。天井を波型に折ることで、満たされたグラスの表面が揺れるような波を表現している。 【 10階 銀座 呑小路やま岸 】 京都の人気割烹店による銀座の新店舗を設計した。京の台所と呼ばれる錦市場から食材を取り寄せ、京の名水も運ぶ。そんなこだわり抜く料理に相応しい店舗になるよう考えた。建築の構造材と同様に、多摩の杉材のみで内装を仕上げ、木造建築を最大限活かした空間としている。カウンターは木場で仕入れたイチョウの無垢材を屋外階段から吊り上げ、自然の迫力を高層階に持ち込んだ。洗面所の手洗いは伊達冠石を、床材の石はスペイン階段でも使用されるバサルティーナを用いた。良い素材を丁寧に用いることで、料理を引き立てるひとつの器となることを考えた。 【 11,12階 91°SAUNA 】 銀座の夜景を楽しむサウナ。ポンチョで整うことのできるルーフバルコニーからは数寄屋橋交差点に向けて広がる銀座の夜景を望むことができる。構造体や壁面の杉、ベンチの檜から漂う天然木の香りに包まれ、銀座の喧騒を感じながらもリラックスした時間を過ごす。水回りのメンテナンスを考慮しつつも、できるだけ天然の素材をそのままに使用することを心がけた。木や石、左官材のザラついた素材感を直接肌に感じながら無機質な都心の中で生き物としての活力を少しでも取り戻す時間を共有できたらと思う。