
PROJECT MEMBER
日本3大名園、金沢兼六園の北側、兼六園下の交差点から庭園に向かう上り坂の中腹に位置するカフェの内装計画である。既存店舗は、築年数がかなり経過しており、老朽化の激しい建物であったが、補強を施しながら、既存の仕上げをうまく利用して、新旧の質感を活かした店舗に仕上げた。 外部建具は大きく開け放つことが可能で、中間期は内外の境界を取り払い、兼六園を訪れた人々にスペースを開放することができる。 既存外壁や天井への着色、内部左官壁の補修など、既存の仕上げを活かすと同時に、ハンドドリップ用に設えた特注形状の人工大理石と左官のカウンターや、新規に打設した着色の床土間など、仕上げ材を慎重に選定し、全体のバランスを整えている。 内部の照明は、既存空間の良さを考慮して天井面には最小限とし、曲線形状の造作ベンチに間接照明を仕込むことで、足元を照らしながら、古民家のなかでの独特の浮遊感を演出している。既存建物の古びた味わいと、新しい素材の清潔感を合わせることで、独自の雰囲気をもつカフェになったと考えている。 兼六園の作庭思想は「神仙思想」。大きな池が大海に見立てられており、そのなかに神仙人が住むと言われる島が置かれ、藩主たちの長寿と永劫の繁栄が投影されている。店内の造作された固定椅子は、間接照明により浮かび上がり、大海に浮かぶ島の様相を呈している。観光客の回遊を促すような曲線は、庭園思想から着想したものだ。この店舗もまた、当時最大の石高を誇った加賀藩のように、華やかな店舗として続いていくことを願っている。