
京都の伝統的なお土産の「八つ橋」というお菓子の専門店の計画です。 かつて八つ橋は京都の定番のお土産でしたが、時代とともに新しいお土産が現れてきたこともあり、最近の若い人たちにあまり知られていません。クライアントから私たちへの依頼は、改めて八つ橋をたくさんの人に知ってもらえるお店にすることでした。 八つ橋の主な原料はとてもシンプルで、米、水、小豆、にっきです。クライアントは原料一つ一つにこだわって良質な八つ橋を作っておられます。私たちは、原料にこだわり伝統の味を丁寧に作り続けているクライアントの想いを受け、八つ橋に興味を持ってもらい、原料へのこだわりを感じることができるきっかけを空間で表現しようと考えました。 売り場の壁と床は、左官に八つ橋に実際に使われている「にっき」を練り込んで仕上げました。それにより、ほのかに「にっき」の香りや質感を感じることができます。壁の一部に八つ橋の形を連想させるような三角形の凹凸を作り、シンプルな空間の中に陰影のリズムをつけることでシンプルなだけではないこだわりを表現し、通りから奥の坪庭へ自然と目が引かれるよう意識しました。天井は、日本の伝統的な格天井を八つ橋の形である三角形にアレンジして、LED照明と組み合わせて現代的なデザインにしました。カウンターの格子など随所に使用している金属は、小豆を煮込むときに使う銅釜からイメージして銅を採用しました。これらの空間を構成する素材は可能な限り天然の木材や石材、土を使用し、シンプルな素材感にこだわり、この先長く使うことを考えてデザインしています。 この店舗はただ商品を販売するだけではなく、八つ橋の手作り体験をすることもできます。八つ橋を手作りして、抹茶をたてていただく体験をするための奥の部屋は、現代の茶室に見立てて、八つ橋の生地を三角形に折ってあんを包む時の折り重なる生地をイメージし、あえて曲線状の低い天井にしています。そして、坪庭には手を清めるための「つくばい」を、石を使ってオリジナルでデザインしました。単にお土産を購入するということだけではなく、手作り体験や、商品の素材感やこだわりを表現した空間を体感してもらうことで、ブランドや商品の魅力が伝わるような店を目指しました。