
PROJECT MEMBER
メキシコをテーマにした、タコスやチュロスを提供するカフェで、とても古い木造家屋を改修した計画です。 京都では、京町屋という歴史的な店舗併設の都市型住宅を残すためにそれを改修して使うことが推奨されています。街並みや歴史の保存のために、建物を残し改修して使うことは大切ですが、それらの内装デザインは似たものがたくさんあり カフェでも物販店でもギャラリーでも同じような空間がありふれています。クライアントは建物を改修することで新築よりも費用を抑えられることにメリットを感じていましたが、提供するメニューに合うような個性的な店を作ることを求められました。そこで私達は古い建物を日本風に改修するのではなく、モダンメキシコと日本が融合したイメージの空間をデザインしました。 古い柱や梁、天井や土壁は補強をして残し、すべてをメキシコをイメージして赤く塗装することで、古い部分と新しい部分を融合させました。塗料には昔から使われてきた防虫防腐効果のある柿渋とベンガラを混ぜた天然の染料を使い クライアントと一緒に塗りました。 1階カウンターと2階客席の空間の繋がりを作るために、中央には吹抜を設けました。吹抜を作るために取り除いた2階の床の板材は吹抜の側面に再利用しています。また、この建物を改修する時に取り除いた柱を使って1階のベンチと物販棚を作りました。ベンチを作った部分には取り除けない元の建物の基礎の石が残っていたため、お客さんがつまずくのを防ぎつつその石を土台として利用しました。 1階の床はこの店のためのオリジナルタイルを作り、目地を含めて貼り方をデザインしました。このタイルはタイルの産地である岐阜の工房に製作を依頼し、土の種類や釉薬の色から選定し、この店のために特別に作ってもらいました。また、目地部分はこのタイルに合うように染料を調合してクライアントと一緒に塗りました。床のタイルと同じ六角形のデザインにした玄関ドアは立体感が出るように厚くして重厚感を持たせ、鉄製の取手もオリジナルで製作しました。 オリジナルの照明は既製品のライン照明と既製サイズの鉄を組み合わせて素材を無駄にすることなくシンプルなデザインにしました。柱や壁など見える部分の照明にはすべてこのオリジナル照明を取り付けることで、空間全体に光の統一感を与えています。 また、1階のカウンターの腰と2階のカウンターの天板には牛革を使っています。牛革は長持ちする上に食肉用の牛の革を再利用するためサスティナブルな素材であり、使い続けることで表情の変化が楽しめるため、古い建物を利用し変化させたこの店の特徴にも合い、さらに長く使い続けながら変化していく部分になることから選定しています。2階のスツールは手に入りやすい柱材を様々なパターンで組み合わせ、素材感を強調して表情を出すためにクライアントと一緒にバーナーで炙って作りました。 このプロジェクトでは既存建物の木材や天然染料などの自然素材を様々な方法を用いて使いながら、素材の再利用性の高かった伝統的な建築の意思を受け継いだ空間にすることができたと感じています。古い建物を活用しながらも、オリジナルのタイルや照明、スツールをデザインし、クライアントにも店作りに参加してもらいながら、他にないオリジナリティを持った個性に合った空間にすることで、クライアントに愛着を持って長く使い続けてもらえる店を目指しました。