
PROJECT MEMBER
老舗ホテルグループの飲食部署においてバーテンダーとして実に30年を勤め上げた元ホテルマンさんの独立開業にお供させて頂きました。 そのキャリアを都会のド真ん中で積み上げてこられ そこで多くのファンをつくってこられた関係上、当初は大阪のターミナル周辺での開業を目論んでられました。 しかしながら物件模索中に不動産事情を目の当たりにされ対象エリアをシフト。 ご自身のご出身地である兵庫県西宮市を今後の拠点作りの場に、と決断されました。 現場は阪神甲子園駅から北へ徒歩8分。 甲子園球場とJR甲子園口との中間に位置するそのエリアは、球場から海へ向かう南側と少し毛色の違う閑静な居住区。 大きなお屋敷・幼稚園・公園が点在する穏やかで住み良い地域。 回転と単価とサービスの全てを高い水準で求められ続けてきたご経験を、慣れ親しんだセミローカルな町で受け入れられるモノに変換する事が命題に。 そこで ■ 近隣の方々に『リラックスできてステイタスも感じれるサードプレイス的なバーが身近に出来た』と感じて貰う ■ ちょっと足を伸ばしてでも定期的に目掛けてきたくなる場所 ■ 知ってる事を誇れる場所 ■ ひいては同業者の方やこれからバー開業を考えてられる方が何かを感じに来店される そんな場を創ろうと相成りました。 携えられた高い教養や知識や技術と、控えめで穏やかな誰からも愛されるキャラクター。 後はそれを発揮する『場』のつくり方さえ間違わなければ、多少時間は掛かってでも上記の様に使って貰える様に成る筈… 環境的にペルソナイメージは限定せず、少しでもお酒が飲める人であればどなたでも非日常を感じながら思い思いの時間をゆったり過ごして貰える場所に。 みんなに向けた場所だけどきちんとリスペクトは頂戴出来る…そんな空間を想像しながらプランを固めていきました。 メインのL字カウンターに加え、壁を向いたカウンターとラウンジ席を設けています。 マスターと顔見知りだったり常連に連れられてじゃないと行きにくい様では皆の場所には成り難い。 マスターとお話しをしながらお酒を愉しむ以外の色んな使い方をして貰える様、小さいお店ながら3つのシーンを設けています。 解体で現れたSRC造の躯体は壁も天井も活かせる箇所は全て活かし。 『manabu』という事で黒板から着想した深いグリーンとオークで染色した木工による 大正ロマンなカラーリング。 インダストリアルと『和』を調和させ、シャープな空間なんだけとなんか和む(なごむ)…あったかいんか寒いんか解らん…を狙いました。 インテリアの主役であろうL型ペンダントライトは特注品。 工場や納屋なんかにぶら下がっていた、紐で引っ張って点灯/消灯する昔ながらの山型の笠付きの蛍光灯ライト。アレを今っぽくしたら…をコンセプトに、1本物の自由変形のLEDチューブライトを起点に作りました。デザインを鈍臭く振っているぶん M6の寸切りでの3点持たせでスッキリ見せています。 設置するまでめちゃめちゃ心配でしたが上手くハマって大満足。 ライティングに関してはあまりメリハリを付けすぎず、明るくも暗くもない…ぐらいにし、『ココはこういう場所です』という主張を避けています。 それぞれの解釈でやはり思い思いに使って貰い易い雰囲気作りを狙っています。 木は建具も含め全てラワン。 移動家具のうち、ラウンジ席のローテーブルはオリジナル。 こういうの既製品でありそうな気もするけど、見当たらなかったんで作りました。 嵩上げ部の床材…も特注品。 打ちっぱなしの躯体の冷たさと、スタッコ調の造作壁の暖かさを融合させるポイントになる箇所と捉えて仕上げ材を選定。 フローリングは暖かくなり過ぎるし、土間では冷たくなり過ぎるし… うまい具合に温度感を合わせる為に450角にカットした溶融亜鉛メッキ鋼板を床タイルとして貼る、としました。 大判のフラットな磁器タイルと迷いましたが、鋼材でありながら厚く被覆された亜鉛メッキによるトロみの具合が丁度いいと思い。 あまり床材として使われる事もないでしょうから必然的に差別化にも繋がるかと。 外部のサインは木目が主張した板目のケヤキ材にUVにてロゴを転写。 控え目なサイズとややオーセンティックな見え方で店内との軽いギャップを狙います。 A型看板は温存していたスチールの折り畳み構造。階上に設置となる為、倒れ難い一定の重量と日課となる上げ下げ作業の負荷軽減という矛盾を可能にします 15mm程のRを付けたモルタル巾木と床面の入隅部 / 大きめの面取りをした木小口 / R処理を施した新規壁の出隅 … 仕上げの部分で柔らかさを出し、お施主さんのキャラクターとの調和を図る細工をしています。 長らく構想されていた大阪の中心部での開業からローカルでのそれへと変更され、そこでの成功にはこういった店舗の存在意義の明確化が必要であろうと判断されるその決断力は天晴れなモノがありました。 物件が未定な段階で最初にお会いしてから、実際の工事契約までに1ヶ月と少ししか掛かっていないというスピード感。 それに限らず諸々の仕様を決めるにしても決断が早い… 私もスピードには自信がある方ですが “この人には敵わんわ…” と感じながら至極リズミカルにお仕事をさせて頂けました。 開放的とも隠れ家的ともとれる絶妙な場所で、そこにニーズがあるか否かでは無く『潜在的なニーズをくすぐる』という観点から創出された大人のサードプレイス『Bar manabu』。 必ずやこの場が1人でも多くの人の “ 無くてはならない場所 ” に成ってくれる事を願います。