
PROJECT MEMBER
山形県の日本海側、庄内平野に建つ平屋の住宅。 広い敷地の中央には建主の両親が住む母屋があり、その廻りを庭木や、蔵、ビニールハウス、畑、駐車スペース、農作業小屋が取り囲んでいた。そのうち北西側にあった老朽化した蔵を解体し、そこに子世帯家族のための住まいを計画した。 母屋と付かず離れずの距離を保ち既存の庭の眺めを活かすこと、寒い冬でも母屋との行き来がしやすい動線を確保することを重視し配置を検討した。庭の眺めや日当たりを優先するとどうしても母屋から離れすぎてしまい、逆に母屋との動線を重視すると母屋の影になって日射を得にくくなり、庭との関係も理想的なかたちとはならなかった。 そこで玄関や収納をまとめた棟を母屋とのつなぎ役として設定し、寄棟屋根の主棟と方形屋根の玄関棟の2つの棟を雁行させ棟が連なるように配置した。 プランは家事動線を機能的にまとめながら台所を中心に各室が展開し、全体を回遊できるようになっている。またそれぞれの室の性格に合わせた開口部を木製建具で制作し外部との関係を調整した。居間や食堂では開口部として機能的でかつ室内から外部の庭木をどうやって美しく見せるか、また外観としても漆喰の外壁に窓廻りには板張りを組み合わせながら構成を整えることを同時に考えた。 外周部に耐力壁をできるだけ設けず庭に面して開放的なガラス面をFIX窓として確保し、袖に配置した通風用の開き窓は必要最小限にとどめ熱損失やメンテナンスにも配慮している。畳室の通風と庭への出入りは片引き戸とした。その戸尻の戸当りを隣り合うFIX窓と合わせることで逃げのない納まりとなり、断面も上枠を化粧梁が兼ねていることにより施工的な難易度は高かったと思うが、若い棟梁の粘り強く丁寧な仕事によりきれいに仕上がった。北側にまとめたプライベートな室の開口部には内障子を設け、天井高も居間より低くし静かで落ち着いた環境となるようにしている。 またこの地方に吹く強い海風から家をどう守るかということも設計において重きを置いたことだ。屋根は塩害に強い瓦葺きとし、できるだけ外壁を濡らさないよう軒を低く深くした。寄棟屋根としたのもどの方向にも軒が出て、地面に伏せるような風を受け流す佇まいがふさわしいと考えたからだ。 瓦屋根の納まりは一般的な工法に倣い特別なことをしていない。あえて言うとしたら耐力上垂木をベイマツにしたことで暴れ止めのために鼻隠しをつけたことくらいだ。垂木の成も軒先を絞って薄く見せるのではなくあるがままとした。瓦の良いところは美しく機能的であることだ。耐久性が高く昔からあたりまえのように使われてきた、日本人にとって、日本の風景にとって馴染みのある素材であり、これからもあたりまえのように使われるべき素材だと思う。 ちょうどこの家の設計中に世の中では感染症の流行が拡大していったが、建築に対する考え方や設計の方法はいつもと変えないよう心がけていた。流行を追うのではなく建築の変わらない機能や心地良さを大切にしながら、何十年先の未来も変わらぬ価値でこの場に居続けている姿を想像しながらの設計だった。