
PROJECT MEMBER
明治期に現在の葛飾区で創業し、1932(昭和7)年から八王子の現在の場所でシルクスクリーンを中心とした布の染色を行う工場、奥田染工場。 区画整理により、近所で解体されることとなった一軒の織工場があった。 そこで使われていたジャガード織機2台を譲り受けることとなったことをきっかけに、このプロジェクトは始まった。 「デザインとものづくりの距離が離れすぎている」 そう語っていた代表の奥田さん。 デザインし布を織り、染めて製品とし、発表・販売をする。 そんな場所がつくりたかった。 染工場の使われていなかった部分を改修した場所には、ラボとギャラリーの機能が一体となった、新たな時代のものづくりの形が体現されている。 街に対して閉じていた建物の外壁の一部を解体し、そこにH鋼のフレームで補強をしつつ、大型の引き戸を挿入した。 引き戸は間口の3分の2が開放し、大きなものの搬入や、内部と外部がつなげたイベントなど、多様に使うことができるようになる。 街に対して、控えめに言っても怪しい雰囲気を醸し出していた外壁は、杉板の下見板張りとした。街を行き交う人は変化に驚きつつも、「昔からこうだったようだ」と言ってくださる方も多い。 内部は屋根を構成する構造材を現しとし、ダイナミックな空間を作った。 入口向かって右側の壁は施主とオリジナルで作った、鉄粉を混ぜた塗料を左官のように何層も重ねて塗り込んだ。 ギャラリースペースとラボスペースを仕切る建具も、解体された織工場から譲り受けたもので、その記憶を受け継いでいる。 工事は設計者自らが請負を行い、分離発注方式で行なった。 リノベーションの対象となる建物は築90年を越す古い建物であり、構造材の水平垂直はどこも怪しい状態であった。 現場にデスクを置き、工事を監督しながら設計を修正し続ける。そんな日々が続いた。 最終的には施主と設計者自らがDIYを行い、完成に漕ぎ着けた。 明確な用途は決まっていないけれど、だからこそ可能性に満ちたこの場所が、今後どのような景色を見せてくれるか、とても楽しみである。