
PROJECT MEMBER
淡路島、海岸線から150m、標高20mに建つ住宅。東の隣地には高さ12mほどの残丘があり、がけ条例のセットバック対応と2階リビングから海を臨む眺望の確保ため、建物が北東へ41度振った角度で配置されている。住宅棟の半分が吹き抜けの土間と階段ホール空間となっている。鉄・木・プラスターなどそれぞれの素材感に合わせて白色に塗装したギャラリーのようなこの空間は、家族が暮らしながらこの場の在り方を探せる場所だ。 ホワイトキューブを目指したわけではない。木質の階段は、2階リビングという配置の中で「階段を上る」という日常のふるまいを、意味のある体験に昇華させる。また、耐風梁・つなぎ梁・タイバー・丸鋼ブレースといった鉄骨部材を黒に塗装することで、構造的な特徴を意匠に隠さずあらわにした。空間をひとつの「体験」として楽しめる場所を考えた。 前面道路は地域住民の生活道路であり、交通量は極めて少ない。「近隣環境からの視覚的干渉は無視できる程度」、依頼主と意見が一致した。2階リビングおよび吹き抜け空間において、北東から北西方向にかけて全面ガラス張りとすることで、周辺の地域環境や季節の移ろいを生活の中で味わえる。北西面のポリカーボネート製のスクリーンは、窓から差し込む光に木漏れ日のような揺らぎを与えながら、吹き抜け空間にやわらかな光を落とす。 2021年のコロナ禍に相談を受け、2022年から本格的に始動した住宅。私たちの「日常性」が突如として姿を変え、当たり前だと思っていた暮らしや人とのつながりの喪失を感じる中で、「住宅建築がいま受け止めるべき日常と非日常」に答えたいと考えた。延べ2年の歳月をかけて依頼主と並走してこの住宅が形となった。 N.ルーマンは「慣れ親しんだものとそうでないものという生活世界の差異は、-中略-もっとも根源的で第一次的な差異である。」と述べている。感染症や社会の激変といった自分たちではどうすることもできない外部環境がもたらす差異。旅行をすること、音楽に身を委ねること、芸術を鑑賞すること、といった選択行動として現れる差異。こうした生活世界の差異が私たちに「非日常」をもたらし、時に大変な困難を運び、ときとして人生を豊かとする。 今回の住宅で目指したのは、日常を忘れるための「特別な場」ではなく、日常と非日常のあわいが混ざり合い、境界線が少しづつ曖昧になるような場所。その空間で、家族はそれぞれの形で日常生活を解釈し、自分たちなりの意味を見出していく。そうした営みを受け止める住宅が、家族にとってのウェルビイングに繋がる空間となると考えた。

