House N

築40年の共同住宅の改修プロジェクト。クライアントは夫婦＋子供２人。 改修におけるプランニング、かたちの組み立ての方法として、圧縮をテーマとして考えた。従来の集合住宅で用いられる空間、構成要素のある部分を圧縮することで、限られた住戸の中に広がりや多様さを見出すことを目指した。 クライアントからの要望を整理していくと、在宅時間の異なる家族が、一体的に互いの生活が感じられる住まいが求められた。また、子供が成長していく過程を考慮し、間仕切りの追加、収納や家具を付け足すことができる拡張性も必要だと考えた。 一般的な集合住宅は、玄関から廊下にいくつかの部屋がぶら下がるように間取りがつくられている。既存の住戸も玄関から廊下を通ると、左右に互いの部屋が独立するように並べられ、採光がとれる環境の良い南側にリビングとして、家族が集う空間が配置されていた。個室が廊下を中心に配置されている空間構成では、独立性の高い部屋は確保できても、家全体の一体感は感じられにくい。また、家の中に手前と奥の空間ができ、手前には移動のためにしか機能しない廊下が生まれてしまう。 今回の改修では、意味が限定された場所やかたちを圧縮し、多義的な空間を割り当てていくことで、一体感がありつつ、多様な使い方ができる場所を住戸の中にちりばめた。 まず、各室の広さを最大限確保するため、廊下と部屋の関係を再定義した。仮設的に設えた部屋を住戸の中央に圧縮して並べ、住戸外周を行き止まりの無い廊下を配置し、各部屋を貫通するように廊下をとることで、生活の場となる部屋の有効面積を最大化させた。ここでは廊下は多義的な存在として、住戸を回遊できる動線であり、部屋の一部でもある。 間仕切りは一般的なLGSの両面に石膏ボードを貼る壁構成ではなく、垂木30mm×40mm材の片面に10.5mmのOSBボードを貼ることで、壁厚を圧縮し、部屋の有効面積を極限まで増やしている。垂木の骨組みを張り巡らせた舞台装置のような壁は、表裏で性格が異なり、表面は既存コンクリート躯体と連続する仕上げ、裏面は生活に収納棚などの造作を追加できる下地を露出させた。圧縮されたスケールになじませるため、高さ1820mmの壁には、家具用の小さなコンセントやスイッチを使用した。