
PROJECT MEMBER
1棟貸しの賃貸住宅プロジェクト。 東京・京王線調布駅からほど近い場所に位置する敷地は、周辺の多くが南北に細長く区画された家々が建ち並ぶ住宅地。敷地南側には旧甲州街道に面した高層の建物が建ち、北側・西側も隣家どうしが近接して建てられており、敷地形状が南北に細長い特徴を持つ条件から、相互のプライバシーを保ちつつ如何に採光を確保するか、が大きな課題の1つとなっていました。 クライアントからは、 ・シンプルであること ・駐車場をつくること ・建蔽率を最大限活用すること などの点が求められました。要望の1つである駐車スペースを設けるにあたり、敷地が面する前面道路は南側の幅員が極端に狭いため車の通り抜けや切り返しが難しいことから、敷地北側にスペースを設けて駐車場を確保する必要がありました。このため、建物ボリュームを敷地南側に寄せた配置が必要となり、南側隣地に建つ高層建物によって南面からの日照を得ることが非常に困難なこと、北側・西側ともに隣家が近いことから外部に向けて大きな開口部を取ることも適さないこと、などから、建物北側に大きなトップライトを設けで壁にその光を反射させることで 1階、2階の居室への採光を確保する計画としました。 1階は、北側の室内壁に反射した光が拡散して奥へ届くよう天井高さを 3.1m に設定するとともに、床面積を最大限確保するためトップライト下の階段途中にも中間階を設けつつも、その中間階レベルを2階主室レベルとはズラしたスキップフロアとすることで、反射した光が1階へより入りやすい構成となっています。また、中間階の床もルーバー状とすることで採光のみならず、トップライト空間廻りの空気が循環しやすいよう考慮した。1階から中間階・トップライト廻りは大きな気積となることから、冷暖房のロスと滞留が生じないよう、1階床とトップライト近くのそれぞれにスリットを設けてダクト接続し、途中カウンターアローファンを経由させることで、夏季は1階床付近に滞留する冷気をトップライト近くに、冬季はトップライト付近に滞留する暖気を1階床に廻し循環させることを試みています。夏季のトップライトからの日射は、水平ロールスクリーンによって遮蔽調節ができるようになっています。 また、スキップフロア構成とすることで、中2階が1階と2階の両階を繋ぐ役割として機能し、垂直方向の関係性も生み出しています。 普段の洗濯物は、敷地条件上どうしても室内干しが多くなってしまうものの、時には大物を外で干せるよう、トップライトの点検アクセスも兼ねて小さな屋上デッキを設けることで、気分転換の場ともなるようにしています。 1棟貸しの賃貸住宅であることを想定し、子育て世帯はもちろん、SOHOのような小さな事務所兼住宅として、エントランスから中間階廻りをキッズスペースやワークスペース、展示スペース、納戸などフレキシブルに活用できるようにし、建具を閉じれば LDK・寝室エリアと緩やかに区画されたインナーバルコニーとしての役割も果たします。 大きなトップライトは、家々が建ち並ぶ住宅地のなかにうがたれた穹 (あな) であり、そのあなをとおして見えるのは、時々刻々表情を変え移りゆく、ここだけの穹 (そら) となってくれるのではないでしょうか。