PROJECT MEMBER
箱根の自然を体験する新しいミュージアムの形 箱根ロープウェイ沿線全体を『箱根の自然を体験できるミュージアム』というコンセプトで再定義し、その中核である大涌谷駅および周辺エリアを、自然を“見る”のではなく“体験する”ミュージアムとして再構築した。屋内外をシームレスに連続させた空間構成と、大涌谷特有の火山地形・風・噴煙などの自然現象と呼応する体験プログラムにより、訪れる人々が箱根の自然のダイナミズムを身体的に感じ取れる場を創出した。箱根ロープウェイの事業性向上という課題に対して、建築・内装・什器・サイン・商品パッケージなどを分断せず、すべてをひとつながりの「ミュージアム体験」としてデザイン。従来の建築的領域を超えて、地域資源と観光体験を統合し、新たな関係性を生むデザインアプローチを実践した。本プロジェクトは、自然と人工、観光と学び、屋内と屋外を横断的に結びつけることで、箱根の自然そのものをミュージアム化する新しい地域デザインのモデルを提示している。 企画、設計、VI/CI計画、設計監理、プロジェクトマネジメントまでを、国内外で数多くのミュージアムを手掛けるMMDが総合的に担当している。 谷へと飛び込む体験を生む『息吹のデッキ』 これまで利用されていなかった建物側面の屋外スペースに、噴煙地の谷へ突き出すガラス床のデッキを新設。屋内から屋外、そして空中へと直線的に連続する動線を形成することで、噴煙が立ち上る谷へと飛び込み、大地の息吹を全身で感じる体験を生み出した。このデッキは、大涌谷全体の観光動線を再編し、ロープウェイ側への新たな人の流れを生み出している。 風の存在を可視化する『風の輪テラス』 建物正面には、大涌谷特有の強風を体感できるパンチングメタルによる楕円形の回遊テラスを設置。これにより、駅周辺を回遊しながら自然を感じる体験動線が形成され、従来黒たまご館方面に偏っていた人の流れを循環させた。同時に、黒たまご館側の駐車場からの視認性を高め、大涌谷駅およびロープウェイの存在を象徴的に印象づけている。 大地の恵みを味わう『大空のほとり』 「黒たまごを食べる」という大涌谷ならではの行為に焦点を当て、景観を望みながら、飲食を楽しめるスタンディングカウンターを新設。ロープウェイを間近に望みながら軽飲食を楽しむ空間を設けることで、五感で自然を味わう場を創出し、ショップの収益性にも寄与している。 自然との一体感を生む『岩の巣ベンチ』 噴煙地の厳しい環境に耐えるウレタン素材を用いて、岩のように造形されたベンチを設置。眼前に広がる荒々しい景観との一体感を保ちながら、座った際の快適性を両立し、滞在時間の延伸とエリア全体の滞留効果を高めている。 体験が屋外から屋内へ連続する『谷のマルシェ』 エリア全体のデザインコードを統一し、屋外空間から店舗外観、そして内部空間へと連続するシームレスな体験を実現。インテリア・サイン・パッケージを一体的にデザインすることで、「自然体験」と「商業体験」が連続する新たな関係性を実現している。