
創業101年、新社屋建設後約30年を経た印刷工場のリノベーションプロジェクト。 印刷工場の記憶を一新し、全く新たな用途であるスタジオをたちあげる中で、過去とどう向き合うかが一つの課題であった。 通例となる過去と現在の共存を空間価値とするリノベーションに、これからつくっていく場の進化や変化、意思をありのままに落とし込み表現することをチャレンジとした。 この空間は、今までの輪郭が全て残っている。新しい何かで覆い隠すことなく裏も一切隠れていない。見え方は様々に、手触り感と共に手を加えた場所と、手つかずの場所が共存、混在している。 施工前日まで使用されていた印刷工場の記憶に、解体しながら新しいマテリアルをのせていった。 外部エントランスは、既存タイルを剥がすのみ。隣り合う従来のタイルの表情が新しく見えはじめた面を強調する。 入口は、従来の床など環境をところどころに残しながら、新たな空間要素が印象を一新する。 クレイジーパターンのカーテンは、向きも性質も質感も様々なマテリアルが共存した、新しい価値観のシンボルとして従来空間を主とした入口と新しい奥のホールに柔らかい境界線をひく。 奥のホールは、躯体はそのままに床に化学反応する特殊仕上げを使用し、生々しい変化の表情を空間に落とすマテリアルとなっている。後戻りできない、手の動きがダイレクトに反映される仕上げが、新しく空間を作り上げる行為や所作をも記憶させる。 壁の木毛板は、割付と表面処理、収まりを工夫し機能面とタイルのような意匠面を両立している。 残す記憶に、新たな場づくりの過程を刻むことで、新しい時代への変化の意志を感じさせる空間となった。