
PROJECT MEMBER
この家では、用途ごとに壁で空間を分割するのではなく、空間同士の境界がオーバーラップする構成で生まれる現実以上の広がりをもつことを模索した。 均質に4分割された単純な平面は、一見すると、同じような部屋が隣接するワンルームにも見える。 しかし実際には、どこにいても全体を見通せず、室の繋がり方や開口部の位置を調整したことで、 視線は止まることなく奥へと導かれ、空間の奥行きを想像させる。それぞれの領域は壁や間仕切りで明確に仕切られず、余白を保ちながら、静かに重なり合っていく。 ホールは、4分割されたうちのふたつの平面を跨ぐように配置され、それぞれの天井高は2.1mと最大6m。 大きな断面の変化と、窓から差し込む光の違いが、並列する空間に異なる時間の流れをもたらす。 反復する平面と、視線が届かない構成は、声や音は聞こえるのに姿は見えない、 遠くにいるようで近くに感じられるような感覚を生み、姿が見えなくても誰かの存在を確かに感じることで、空間の存在を想像させる。 空間の存在を想像させる感覚は、アピチャッポン・ウィーラセタクンの映画『ブンミおじさんの森(2011年)』において、 失われた妻と息子が幽霊や精霊として家に帰ってくる場面とも重なる。この映画にの幽霊たちは、恐怖の対象ではなく、そっと空間に寄り添う、親しい存在として描かれている。 彼らは生者と変わらない姿でそこに佇んでいるが、生者は画面の中にいる時しか語らず、画面の外から響く声は幽霊たちのものだけだ。 その演出が彼らの「不在」を強調しながらも、確かにそこにいたという気配を空間に深く刻み込み、不在であることが、空間の奥行きをより鮮やかに立ち上げる。 この家でも、そうした想像上の奥行きや、見えないけれど確かに存在する空間が、日々の暮らしの中に静かに立ち上がってくることを目指した。 さまざまな気配や光、音の重なりが、現実を越えた広がりをつくり出す。家という最も親密な場所が、そうした重層的な時間や距離を内包する場であればと思う。 重層的に時間が交差する空間は、現実を超えるひろがりを静かにたたえている。
