PROJECT MEMBER
本計画は、都市の中にありながら閑静な環境を保つ⾵致地区に位置する住宅である。敷地は⻄側に向かって⼤きな⾼低差、隣地との間には最⼤約 7m の段差が⽣じており、建ぺい率30%、⾼さ制限、がけ条例、宅地造成、緑化率といった厳しい法的条件を満たす必要があった。こうした制約の中で、いかに快適かつ豊かな居住空間を確保するかが、本計画の主要な設計テーマとなっている。 敷地前⾯の道路は緩やかにカーブを描きながら⾼所から低所へと続いており、建物に向かって⾞が降りてくるような構成となっている。これに呼応するように、建物のファサードは穏やかな曲線を描き、周囲の⾵景に⾃然に溶け込む柔らかな表情を持たせた。敷地の構成としては、前⾯道路は敷地に対して北東側に⾯し、奥に⾏くほど地盤が⾼くなる。⼀般的には使いづらいとされる地形を、本計画では積極的に活かし、敷地の奥を動線空間として計画した。前⾯道路から進み、地下階にあたる奥まった位置に⽞関を設けることで、アクセス動線を敷地の最奥に集約した。⽞関へと導かれるこのプロセスが空間に奥⾏きと物語性を与え、同時に建物全体の縦動線を明確に整理する構成となっている。 こうして道路側を居住空間としたことで、⽇照条件に恵まれた位置に主要な⽣活空間を確保し、あわせて⾵致地区という地域特性を踏まえ、積極的に植栽を施すことで、光と⾵の⾏き渡る開放的な空間とともに、季節の移ろいを感じられる住環境を実現している。 施主はキッチンを中⼼としてお客様をお迎えすることが多いとのことから、⼀般的にリビングに設けられることの多い吹き抜けを、あえてキッチンに採⽤。天井まで伸びる天然素材の壁⾯と相まって、キッチンを舞台のような象徴的な空間とし、上部から注ぐ⾃然光により、ダイナミックで明るく、印象的な場を創出している。 キッチンを中⼼に、リビング、テラス、庭へと連続する空間構成とし、さらにテラスの先に ⼤きな壁を設けることで、内と外が緩やかに繋がりながらも、視覚的にはその壁までが室内の延⻑として感じられるよう計画した。これにより、厳しい敷地条件のもとでも、実際以上に空間が広がっているかのような開放感が⽣まれている。中庭を囲むように居室を配置することで、どの部屋からも庭を介した視線の抜けと⼼理的な繋がりが⽣まれる。こうした庭越しに奥の部屋が垣間⾒える構成は、空間に奥⾏きと広がり、さらには居⼼地の良さをもたらしている。 ⼀⽅で、地下階には⽔盤を備え、静けさと落ち着きを重視したシックな居室を設けている。地下という特性を活かし、⽇常の喧騒から離れた、瞑想的なひとときを過ごすのにふさわしい場となっている。 複雑な敷地条件や厳しい法的規制のもとでありながら、地下空間の積極的な活⽤と、光・⾵・緑の連続性に配慮した⽴体的な空間構成によって、静と動の対⽐を感じられる豊かで多層的な住まいを実現している。