




補足資料




Arcade Hotel が位置する吉原商店街は、新規出店は見られるものの、高齢化や後継者不足、来街者の減少といった全国の商店街と共通する課題を抱えています。加えて、この地区は1960年代の防災建築街区事業によって鉄筋コンクリート造の共同建築群が形成され、複数地権者による一体建築が連続する独特の都市構造となりました。そのため建て替えには広範な合意形成が不可欠で、地方都市の経済状況も相まって建築更新が停滞しやすい状況にあります。一方で、老舗店舗の営みや生活文化の厚み、街路の奥に立ち上がる象徴的な山稜など、この場所固有の魅力は確かに息づいています。 吉原は1600年頃から東海道の宿場町「吉原宿」として栄え、富士登山の玄関口でもありました。もともと「旅人が滞在する」ことを前提に発展してきた都市ですが、1960年代の防災建築街区化や自動車交通の普及により、その滞在文化は次第にかたちを失いつつあり、現在の商店街にはその面影だけが歴史のレイヤーとして残っていました。私たちはこの歴史を現代に再接続する方法として、商店街にホテルというプログラムを挿入し、再び“滞在地”として立ち上げることを目指しました。 約10年間遊休化していたビルをリノベーションし、Arcade Hotel を商店街体験の基点として開業しました。宿泊という用途は、一般に活用が難しい2階以上のフロアまで含めて建物全体の再生を可能にし、点在する既存建築が面としての商店街に作用する構造をつくり出します。 本プロジェクトが掲げる提供価値は「3rd LOCAL」です。故郷(1st LOCAL)でも特別な旅先(2nd LOCAL)でもない、第三の“帰りどころ”としての滞在を目指し、適度な距離感や関わりの深さ、ワクワクしつつも緊張しない感覚を空間と運営に組み込んでいます。また、初めてローカルに踏み込む際に生じる不安をやわらげるため、「安心なローカル」というコミュニケーションコンセプトを設定し、旅人がまちへ入る“最初の一歩”を支える仕組みを整えています。 建築デザインでは、空間の基調として「清と濁のコントラスト」を据えました。富士山や湧水に象徴される“清”と、商業のエネルギーや夜のネオンが孕む“濁”を共存させ、吉原の二面性を空間に翻訳する試みです。白壁や大開口ガラス、中庭の植栽が軽やかな光環境をつくり、躯体表しのコンクリートやモルタルかけ落としのカウンターがその対比として重層的な奥行きを与えています。 什器には「Placemaking Kit」で用いてきた紙管を採用し、ホテル空間に合わせて構成を再設計しました。家具と造作のあいだに位置づくスケールへ調整することで、空間のリズムに建築的に寄与すると同時に、地元製紙工場の紙管という一次素材を用いることで地域産業との接続を生み出しています。 さらに、間口が狭く奥行きの深い商店街建築に対し、前面と裏庭を貫通させる大開口を設け、街路から裏通りへ視線と動線が抜ける構成としました。これにより建物は通り抜け可能な“抜け”として機能し、裏通りの路地や古社、小規模飲食店への回遊を促し、商店街の異なるスケールを自然につなぎ直しています。 Arcade Hotel は、更新が難しい共同建築群に対して、既存建物の再編集を通じて新たな価値を引き出し、商店街を再び“泊まるまち”として立ち上げるための建物を通じた新しいアプローチです。滞在を媒介に、まちの文化層を読み替え、拡張し、未来へ継承する“場”となることを目指しています。
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