雑司が谷 高橋邸

ビルディングタイプ
戸建住宅

PROJECT MEMBER

DATA

CREDIT

  • 設計
    高橋朋之+川口琢磨
  • 施工
    河合建築
  • 構造設計
    坂田涼太郎構造設計事務所
  • 撮影
    稲継泰介

都心での新しい「くら」のあり方 計画地は見通しのよい坂道の中腹にあり、周囲は地形の起伏に富んだ古くからの木造密集市街地である。近年この地域は、都の「新たな防火規制区域」のためすべての新築が準耐火建築物以上となり、建て替えにより徐々に街の風景も変わりつつある。ここで私たちは、住み手や大切な家財を守るべく、大火の歴史と共に発展してきた「蔵」と、穀物を保存するなど木造がもつ風通しのよさを備えた「倉」を、それぞれ外界から内部を守るRC外壁と軽快な木造の床として再解釈し、両義性をもつ「くら」を考えた。敷地形状に沿った建坪8坪、高さ8.5mの自立するRC外壁により準耐火ロ-1の要件(外壁耐火構造)を満たすことで、内部の防耐火規制を受けず木造が本来もつスケール感と繊細さを現している。針葉樹合板型枠による力強いRCの量塊感と合わせ、素材同士の力を強め補完し合う空間を目指した。 周辺の段丘状の地形と呼応するように8つのレベルに配された薄い木造床は、食堂や風見台となる大きな床と書斎や化粧室となる小さな床といったさまざまな大きさをもち、各場所の独立性と上下の一体感をもたらす。またRC外壁の大開口は平面的にも断面的にも視線を長く延ばし、前庭のアオダモ、隣家のモミジ、遠景の大ケヤキと重なる風景を取り込んでいく。下階から大ケヤキを見上げたり上階から窓いっぱいに広がるモミジを見下ろしたりと、家の中の往来と共に内外の風景が移り変わり、街と地続きに暮らすような体験を生むだけでなく、RC壁の外側に飛び出した床は実際に周囲の街との関係を結ぶ。内外の多様な距離感が、職・住・遊といったさまざまな生活の同時存在を許容する。 この「くら」が、防耐火の厳しい都心部でも平面的な小ささを超え、断面的な体験と無垢なる素材を携えて、まちと暮らす楽しさを発見するひとつの解となればと願っている。   (高橋朋之+川口琢磨)

3