


補足資料

DATA
- ビルディングタイプ
- 共同住宅・集合住宅・寮
- 工事種別
- リノベーション
- 延べ床面積
- 96㎡
- 竣工
- 2024-12
CREDIT
- 撮影
- 西川公朗 / 新建築社 / 八坂麻里子 / KO Tsuchiya
- 設計
- YNAS
- 担当者
- 沼田祐子
- 施工
- TH-1
周辺環境と既存建築の関係を読みとき導く動線 神宮の大通りから小道を曲がった先に現れる、半世紀前に建てられた集合住宅「ビラ・セレーナ」(設計:坂倉建築研究所設計1971年竣工)。 神宮2丁目地区は同時期に竣工した建築が多く集まる古い街並みが残るエリアで、神宮前の駅からほど近いにもかかわらず、路上でいつもの近所の方が立ち話していたり、開け放しの玄関から室内が見えている家があったり、と長年暮らす人々の生活の空気を体感できる。 ビラ・セレーナは平面的に十字のスリットが入り、4つのヴォリュームに分節することで隣り合った住戸がほとんどないこと、住民共用の光庭を内包しており、建物の裏側と捉えられる内側が黄色に塗られていることが特徴である。光庭は角度のついた外壁と円筒形のEVシャフトによって、各戸の玄関の視線が制御されており、外部の曲がった小道がそのまま続いている感覚になる。 路地に顔を出す黄色に塗られた隙間の階段を数段上がってたどり着く一室を、建築家とキャスティングディレクター夫婦の自邸兼仕事場として設計した。二人とも仕事とプライベートの境界が曖昧で、その曖昧さを楽しみ、集中したいときには自分の世界に没頭できる場所が必要であった。路地から共用部まで続く動線と、ビラセレーナの空間構成を住戸内にまで引き込むことで緩やかに連なる空間を作った。 既存建築への敬意 引き継いだ一室は、竣工当時から一度もリノベーションやリフォームがされておらず、オリジナルの状態を見ることができた。当時の分譲の売り方であったのだろうと想像できる、3LDKの間取りに細かく部屋が分かれており、広い開口部や地植えの植栽帯があるにもかかわらず、解放感や明るさ、屋外との繋がりが感じられなかった。 一方で、当時の集合住宅では珍しく、天井あらわしの部屋がいくつかあり、階高2700㎜程度であるが圧迫感がない。躯体エッジにテーパーを切っている、等の細やかな配慮も見られた。梁せいが浅く見えるが(160㎜) 、各住戸の床側に梁の上半分が突出している構成になっており、床仕上げで隠蔽されていた。 スケルトンに解体し、現れた躯体は美しかった。600㎜角の柱と共に、天井、床共に躯体を現し、床梁上端面と同面でフロアレベルを設定し直した。そして不整形な平面形状の空間にあえてグリッドからずらした1枚の曲面壁を設置した。曲面の先に続く空間の奥行を感じさせながらも視線を操作する。各エリアは廊下や建具を設けず、この壁を中心に半オープンな空間の連続として配置した。 各開口の窓を風向きに合わせて開放することで曲面壁に沿って部屋全体に風が通り抜ける。湿度の高い下層階のため、水回りやクローゼットを含めて常に空気が動く快適性を求めた。曲面壁は床、天井共に梁を現したことで配管などが困難な場所への設備ルートにもなる。 新たな生活の場所の創造 キッチンとダイニングエリアはミーティングスペース、リビングはプロジェクター投影で映像確認やホワイトバック撮影の空間も兼ねる。スタディエリアは逆梁躯体を生かし、他の床より320㎜下げ、長さ5.5mのデスクと本棚を設置し、開口部への圧迫感を低減しつつ、窪みの籠り空間を形成した。集中して本を読む場にも、段差に腰かけながら数人での議論の場にもなる。ベッドエリアは透過性のあるカーテンで間仕切り、スタディエリア越しに窓の外を望む。周回できるプランで、来客中には顔を合わせずにプライベートエリアにアクセスが可能。キッチン・ダイニングから水回りにかけて時計回りにプライベート性のグラデーションを高めており、各部と屋外空間との関係も用途に合わせた距離感、高低差により視線や借景の操作をしている。例えば来客の多いリビングエリアは住宅スケールに余白を加えた寸法感を確保し、あえて道に面した開口の近くに設置することで、プライベート感を抑え、仕事関係の来客の居心地に配慮。くつろぐリビングエリアはアウトドアリビングの奥行と道路との高低差により、歩行者からは見えないが、内部からは空が見える。集中して作業をするスタディエリアは隣地と共有している歩行者のほとんどいない庭に面し、地面に近い距離で植栽等を望む。 周辺環境を含めたカラースキームによりさらに広がる空間の気積 ビラセレーナの周辺は地形に高低差があり、周辺との視線レベルが変わることの特徴を生かしながら内部の構成を検討した。さらに周辺環境の光や色、植栽の観察を加え、テクスチャや色の選択をおこなった。住戸全体が緩やかに繋がり、外への意識が加わることで、独立しプライベートヴィラのようでありつつも周囲の環境に溶け込むものとなった。 曲面壁は開口からの光を受ける向きに設け、鉱物性漆喰塗装により鈍くやわらかな反射光で空間を満たす。オリジナルで製作したタイルは松灰の釉薬で天然の薄緑色を発色させた。日本では伝統的に水回りや道具の木部に保護のために使っていた柿渋塗料をデスクや水回り棚などのラワン合板の上に重ね、経年で発色が変化する造作家具に。スタディエリアの床にはレンガ色のタイルを敷き、窓越しに見える隣地のレンガ外壁と呼応されることで、狭いエリアながらも外部庭空間を含んで広く感じられる場とした。


