
地方都市における新築の美容室である。閑静な住宅街である周辺環境との調和を図り,身体的で親密なスケールを持つ複数のボリュームで構成された建築としている。住宅に囲まれた美容室として,プライバシーが守られつつ適度な開かれた安心感があるよう,内部にいながらも外部にいるような空間を目指した。 そこで「図と地」の構成による美容室を考えた。「図」としての建築と「地」としての敷地を等価に扱い,双方のスケールと形態は近いものとした。そのため,内部空間を歩くと,「図と地」が反転し,内部と外部が入れ替わる錯覚をして,パサージュのような建物と建物のあいだの小径を歩いているように感じさせる。 また,ボリューム同士が互いに喰い合う形態操作は,建築の自己捕食を想起させる。例えばタコの自己捕食を想像すると,どこまでがタコで,どこからがエサになるのだろう。この自己捕食している建築は,どこまでが建築で,どこからがコンテクストになるのだろうか。 「図と地」の構成,ボリュームの喰合という形態操作により,内外が相互に貫入し合い,内部と外部,建築とコンテクストの境界が曖昧になる。そして心地の良い不思議な空間を持つ美容室が誕生した。