




□点線のような、あいまいな境界がつくる協創の場 Hirooka Terraceはコロナ禍、能登半島地震、能登半島豪雨という未曽有の困難を乗り越えて2025年に竣工した。同時に、テナントオフィスビルの内部と外部、共用と専有、既存と新築の「境界のあり方・見え方」を再考したプロジェクトである。金沢駅西側の緑豊かなけやき大通りに面する敷地には、同じく当社の設計による北國銀行本店(2014年竣工、以下「本店」)が既存建物としてある。2011年に設計を始めた本店は、地域から親しまれる銀行として「通りに開く、街の広間」のような建築が求められた。低層部の土縁的かつ吹抜のエントランスホールに面して、バンキングホールや大階段、ホール、食堂を配置した。Hirooka Terraceの設計は、それから10年を経たコロナ禍に始まった。当時、クライアントが本店の自然換気窓をフルオープンにして利用している様子からは、いわば半外部状態のオフィスでも地域の気候と呼応しながら十分機能することを教わった。さらに、食堂のように賑やかな共用部がオフィスの延長となり、様々なアクティビティが混在した空間として使われていることを知った。 従来からの都市のテナントオフィスビルにありがちな「大きな専有部と小さな共用部」という構成ではなく、Hirooka Terraceでは「大らかな共用部に、人びとが集い協創する場」をめざした。そのあり方を考えるにあたり、内部とも外部とも異なる「半外部」空間の創造を試みた。そこは、「会話」と「クリエイティビティ」が生まれる協創の場であり、北陸の光や風、時の移ろい、地域性が有機的に複合した空間である。まず、共用部である内外と半外部空間の境界を軽やかな建具によりあいまいにした。これにより、成巽閣にある清香軒の飛鶴庭と内露地の関係のように、けやき大通りから屋上までの空間どうしがゆるやかにつながる。そこには、オンラインで陥りがちな予定調和的なやりとりではなく、偶発性が生じる場にふさわしい素材があり、光と風が通り抜ける。さらに、地域の能登ヒバやスギの香りが空間を温かな場にする。 Hirooka Terraceと本店は大屋根と低層部のブリッジで接続され、互いの空間や機能を共用できる。働き方の変化により不足し始めた本店の交流や会話の場は、Hirooka Terraceに豊かな共用部として計画された。一方、従来のテナントオフィスビルではレンタブル比の制約により実現困難な食堂やホールは、本店の既存空間を一部リノベーションして、双方で利用可能にした。これらにより、ふたつの建物に人びとの往来が生まれ、ひとつのアクティブな場へ変容した。テラスやラウンジ、スモールオフィス、ブリッジ、産官学金ラボ(地域の大学、高校も参加する)、食堂、ホール、イベント利用も可能な駐車場等に集う、多世代・多職種の人びとから生まれる偶発的な会話や活動により、Hirooka Terraceは地域の未来のビジョナリーとなる。ここでも偶発と混在が生じ、それらの境界は点線のようにあいまいである。

