旅館吉田屋 大浴場

ビルディングタイプ
旅館

DATA

CREDIT

  • 撮影
    鳥村鋼一写真事務所
  • 設計
    株式会社STUDIO MOOUN
  • 施工
    長崎船舶装備株式会社

日本三大美人の湯として知られる佐賀県・嬉野温泉にて、創業90余年の老舗旅館「吉田屋」の第二期改修として、大浴場のリノベーションを行った。 本計画は、単なる施設更新ではなく、周囲の自然や時間の積層と調和する「身体的体験の場」としての浴場を創出することを目的としている。 既存施設には大浴場と貸切風呂が隣接し、両者に面した中庭が木塀に囲われており、浴場と庭との高低差や開口部の少なさから、30坪もの庭がありながら空間の広がりが感じられず、環境を十分に活かしきれていないことが課題であった。 この課題に対し、まず注目したのが庭と駐車場を物理的に隔てる「塀」の存在である。 木塀の外側は宿泊者用の駐車場となっており、視線を遮るために設けられたものであったが、私たちはその塀と浴場を意匠的・素材的に接続することで、空間の境界を越え拡張し、浴場内から自然との一体感が得られる構成を目指した。 屋内空間にはコンクリート打ち放しのリブ仕上げを採用し、素材の持つ永続性や耐久性を活かすことで、吉田屋の歴史と時間の流れを体現している。 また、古い陶板や古材から着想を得たマテリアルを選定し、建築素材そのものが「時間の橋渡し役」となるよう配慮した。 湯の表情にも工夫を凝らし、嬉野温泉の塩田川は温泉成分により緑がかった乳白色を呈しており、その印象を浴場でも感じられるよう、浴槽の底部には淡く緑がかったタイルを採用。 さらに、常緑樹の松を浴場側に配し、葉に反射・透過した自然光が浴場内に柔らかな緑の光をもたらす。 浴室は「屋内浴場」「半露天風呂」「露天陶器風呂」「サウナ」の4つで構成され、中心となる屋内浴場と半露天風呂を連続的に配置。 庭との関係性を重視し、庭を浴場側に向かって緩やかに掘り下げることで、湯に浸かった際に奥行きを感じられる視線設計を行った。 塀越しには山の風景が望め、視覚的な広がりを生み出した。 また、外部空間とのつながりを強調するため、露天側には黒く艶のある六方石を据え、空や緑を映し込む「水たまり」のような自然の鏡面を表現。 浴場内部の通路や洗い場には、日田石を自然なかたちで切削・加工し、飛び石のようなリズムで床や仕切り板に用いた。 それぞれ形状の異なる天端が、空間にゆらぎと個性を与え、均一性を崩すことで空間に豊かさをもたらす。 本改修では、素材、光、視線、空気、時間といった要素を丁寧に扱いながら、訪れる人が旅のひとときに土地の風景と交わり、深い記憶としてその体験を持ち帰れるような浴場空間を目指した。

物件所在地

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