




PROJECT MEMBER
本計画は、美容という日常的な行為を、都市の中で「少しだけ呼吸が深くなる時間」として体験できる場へと編み替えることを目指した。 夫婦で営まれるこのサロンには、自然と笑みがこぼれ、心がほどける時間をお客様と分かち合いたいというオーナーの思いがある。その感覚を、空間の構成そのものとして立ち上げている。 既存躯体のコンクリートを現しとし、大谷石、木、テキスタイルといった異なる質感の素材を重ねることで、硬さとやわらかさが静かに同居する関係をつくった。 曲線的な造作や透過性のレイヤーを挿入することで、空間には緊張と緩和のリズムが生まれ、滞在する人の動きや視線が、自然と穏やかに変化していく。 現しのスラブに覆われた空間の中で、光はシャンプーブースの床間接と、階段正面に設えた天井間接という限られたポイントから立ち上がる。 透過性のあるファブリックを通して輪郭を失いながら、光はにじむように広がり、明確な境界をつくらず、陰影の濃淡として場に滞留する。 領域は壁によって断絶されるのではなく、レースのカーテンという半透明の境界によって編み替えられ、光のにじみと奥行きの差異によって、ゆるやかに分節される。 シャンプーブースは半個室のレイヤー構成とし、視線・音・気配が段階的に変わることで、「髪を整える時間そのものが癒しになる」体験を空間として翻訳している。 効率や機能の最適化に留まらず、施術の前後に生まれる“なにもしない時間”までも包み込むこと。 この美容室は、都市の中にそっと差し込まれた、小さな静寂の居場所である。
