




補足資料

PROJECT MEMBER
・突然の移転計画 東京神楽坂にあるビアバーの移転計画。20年近く多くの人に愛されてきたお店が、突然起きた建物の取り壊しによって移転を余儀なくされたことからこの計画は始まった。 次店舗のプランも決まっていない状態での退去となり、とりあえず再利用できそうな備品を、それこそ家具から電球に至るまで思いつくままに貸し倉庫に移動させてからプランを考えることになった。クラウドファンディングでも多くの人から支援された人気店を再構築するにあたり、これらの備品を可能な限り転用し、一部のデザインを周到しながらよりビールを楽しめる空間を目指すことにした。 ・家具のように造作したビール樽用冷蔵庫 最大の特徴はカウンター内に設置されたビアカウンターで、下部にはビール樽を12本保管できる大容量の冷蔵庫が設置されている。メーカーによる特注冷蔵庫も選択肢にあったが、コスト上の制限と、性能を優先するメーカー品ではせっかくのビール樽が隠れ冷蔵庫自体も脇役になってしまうため、あえて家具を作るように冷蔵庫を造作し、2枚合わせのアクリルの扉越しに日毎に変わるビール樽を眺められるようにした。 ・同心円状に配置したカウンター席とテーブル席 全体計画ではこのビアカウンターを囲むようにカウンター席を配置し、さらにその外側にテーブル席を同心円状に配置している。移転に伴い客席が2倍近くなるなか、今までどおりオーナー姉妹2人で効率的にサービスできるように、カウンター内から客席が一望できてオペレーションの動線が交差しないレイアウトを計画した。 各テーブル席はクローゼットで視線を分断しさらに天井を低く抑えることで個室のような少し閉じた空間にしている。またビアバーならではの気軽さも大切にするため、カウンター端、神楽坂の街並みを望む窓際、そして入口正面のウェイティングカウンターにスタンディングスペースを設けている。 また既存のトイレ2部屋を若干せばめて極小の喫煙所を設けている。それぞれがぎりぎりの寸法となったが、洗面器を違い違いに配置したり、トイレの便器上部分に喫煙所をのカウンターを食い込ませたりと、立体的に空間を噛み合わせることで成立させている。据付の灰皿は防災上の観点から取り外し方となっており、使用後にカウンターに返却するシステムとなっている。 ・バーの居心地の良さとは? 各部材については、搬入経路が限られていたため部材の長さは2m以内と決めてから設計を進めた。カウンターも必然的に継ぎ目が多くなるのだが、この継ぎ目にかかわる部材の勝ち負けなどをコントロールすることであえて複雑な表情にしている。また先にも述べたように家具や扉、金物などは旧店舗で使用されていたものが転用されている。それらは新しい店の中で使い方が変えていたり、新しい部材と組み合わさっているものもあり、ちょっとした宝探しの様相となっている。 バーという空間では全体の雰囲気も重要だが、視線を変えた時、ふと手元にあるものを見た時に、新しい発見や手を触れたくなるようなものがあることも重要だと思う。たとえ一人でも退屈しないで過ごすための視覚的な”肴”みたいなもので、通常これはグラスであったり灰皿やライターような小物だったりするのだが、ここでは建築自体も小物のように細部を丁寧にあつかうことで、視覚的な肴を散りばめようとした。 以前の店舗の象徴であった赤いランプは、神楽坂を歩く人々がふと見上げると目に飛び込んでくるよう、窓際のカウンター下にひっそりと吊り下げている。人気店でありながら隠れ家であってほしい、多人数で来ても一人で来ても楽しめる、こんな相反した希望を内包した空間になったと思っている。