




補足資料







生命(いのち)の建築 GROUNDING TREE 大阪市立長居植物園内に計画した生命の建築である。1970年の大阪万博で、岡本太郎は、高度経済成長期に技術進歩主義であった日本に警鐘を鳴らすように縄文文化を象徴する太陽の塔をつくり、それは資本主義が加速する現代社会に今もなお問いを投げかけているように見える。今回私たちが計画したGROUNDING TREEは、高層化する建築における自然環境の形成やエネルギーの循環を考え、これからの「人間と自然の共生関係」を問う自然界の森羅万象(空、風、火、水、大地、生命)を捉えるための建築をつくろうと考えた。 私たちは2006年に「人間も含めて宇宙に存在するすべてのもの」である「自然」の一部となる建築として、GROUNDING-HOUSE01-を発表した。GROUNDINGとは“大地に繋がる”という意味を持つ。都市の9坪(約30m2)の狭小地に9層の緑化した人工地盤を重ね、自然と共に住む住宅の計画であった。1本の樹木のように、そこに棲みつくさまざまな生き物たちと寄り添うように生きようと考え、計画した建築である。樹木が持つさまざまなシステムを模倣するバイオミメティクスによって設計を進めていったが、残念ながら実現には至らなかった。その後GROUNDINGを追求する建築を幾つも試行錯誤し、20年越しについに樹木としての建築を「植林」できた。 GROUNDING TREEは、樹木を植えるように大地と宇宙を繋ぐ建築をつくろうとした。あえてここで宇宙というのは、人々の理解が及ぶ空(地球大気圏)を超えた目に見えない領域(宇宙)までを想像してほしいからである。植物の葉脈から構造をスタディし、9枚の楕円平面の湾曲した鉄のスラブを9本の湾曲する鉄骨柱と地上に繋がる中空の鉄の大柱で支え、各スラブには、地域種の植物による緑化を施している。将来移設の可能性を考え、基礎にはコンクリートは用いず、H形鋼と鋼管杭で構成している。3本の上部がラッパ状に広がった柱により雨水を集め、上部の貯水タンクに一旦貯められる。その後、水は柱の中を通り、各スラブに導かれ、植栽のために毛細管現象を利用した底面灌水のために貯水される。各スラブからオーバーフローした水は、順に下部スラブへと流れていき、最終的には地下タンクに集められる。そして、上部に設置した風車を利用して、植物の維管束のように柱の中を通り揚水され、インフラに頼らない水循環を形成している。位置エネルギーと風力を利用し、都市の中で里山のような水循環を試みた。風は揚水のためだけでなく、貯水タンク上部に設ける予定のエオリアンハープ(サウンドパイプ)によって音を奏で、森のさまざまな音と調和しながら、この場所の環境を顕在化する。 古の時代から、人類は山とそこにある地球上のあらゆる生物の命の源である水源を信仰してきた。GROUNDING TREEは、都市の新たな水循環により、水の大切さを伝えてくれるであろう。地上から階段で空へと上昇していくと、曲面状の床スラブとうねり曲がった柱に囲まれ、植物、鳥、人などさまざまな生命体が集う有機的な空間を体験し、周囲の森を一望できる。現状の樹木はまだ苗木ではあるが、それらはいずれ大きく成長し、有機的な空間の中で人びとが森や空と心身共にシンクロし、精神的・身体的記憶に残る建築となることを願っている。 構造 この空間をかたちづくるのは大地に根差し、天に向かって伸びてゆく”生命の構造体“である。絡み合いながら蔓のようにうねって伸びる9本の柱は生命のための9枚の人工地盤を支え、鉛直軸から傾いて連なることで水平力に抵抗する。人工地盤の各スラブはリブつきのモノコック構造であり、内部に土を充填することで土壌基盤をつくっている。リブは当初葉脈のような配置を考えたが、施工性と機能性を考慮して直交グリッドに変更した。全てコルテン鋼による鋼構造で、時間と共に風化しながら風景に溶け込む構造である。将来の移設の可能性も考慮してコンクリートは一切用いず、地中に延びる柱(鋼管杭)と鋼製基礎によって大地にしっかりとつながるように計画した。(陶器浩一) 施工 「もの造り」の領域を超える施工 構造体を構成する三次元の曲柱と湾曲床は「さびをさびで制する」特性を持つ耐候性鋼(COR-TENO材)を用いて製作を行っている。鋼鈑地肌の表面色調は、水と空気と光の調和により乾湿を繰返すことで保護性錆が生成され経年変化によって少しずつ色合いに深みが加わり植物園の緑樹に馴染んでゆく。自然エネルギー利用するグランディングツリーの設計コンセプトを遵守した製作だった。湾曲床に植栽された自生植物の生命維持に不可欠な水は、独自の風力揚水システムにより供給している。風が奏でるサウンドパイプは、カルマン渦に起因するエオルス音を利用する一種のエオリアンハープである。具現化のため空力特性の流れの可視化まで解析を行ったが実証試験には至らず頂部貯水タンクに面影が見える。芦澤さんが提唱している自然界の森羅万象を捉えるための建築は、実務に精通した技術者にとって「もの造りの」領域を超える難解で奥が深い仕事であった。(高橋和志/高橋工業) 地産地生―植物社会学的アプローチによる植栽計画 GROUNDING TREEにおける植栽コンセプトを検討するにあたり、長居公園および大和川流域の自然植生をリサーチした。 その結果、エノキ・ムクノキ群集などの自然植生の存在が確認されたことから、修景的・教育的・文化的・保全的役割を考え、ランドスケープのデザイン及び植栽計画を検討した。各スラブに異なる自然植生の構成種を植栽し、種組成の変化や群落の高さの変化を感じる設計とした。主な植栽種は長居公園内に生育する在来種(主に自生種)から種子、株を採取し、市民参加型ワークショップによって約1年育苗し、植樹した。絶滅が危惧される地域遺伝子の系統保存も考慮している。同時に底面灌水の実験も3年続けて行い、試行実験を重ねて構築した植栽計画である。植栽された在来種は自然(風、雨、鳥、虫)の作用と時間の経過により、環境に適応していく。植栽株が成長すると同時に、自然に運ばれた種により種類が入れ替わっていく。つまり、植生が遷移していくことを許容している。 そして、植生の遷移は訪れる鳥や虫にも変化を生み、やがて地域らしい生態系の一部として溶け込むだろう。地域の人びとが植生の基盤を整え、その後の修景を自然に委ねる、まさに自然共生型のデザインである。こうして創り出されるランドスケープは、われわれの想像を超える未来を見せてくれるだろう。 (芦澤竜一建築設計事務所+ラーゴ) 学びの装置としての建築 訪れた子どもから大人までが五感で自然を感じられる学ぶ装置としての機能を考えた。樹木の模倣をいくつか知覚できる仕組みがあり、随所で水が巡っている様子がわかるように計画した。また、上部の貯水タンクを突き抜ける3本の柱の先端には、弦がはられ、風が吹くと、周囲の森の葉のざわめきと共に音楽を奏でる予定である。上部に進んでいくと、幸運な日には、クライマックスとして、それを体感することができる。鳥の鳴き声と調和し、より一層樹木のような存在を感じる。またそこに佇む自らも、一体感を感じることができるであろう。
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