




補足資料

「風景と構え」 施主の要望は明快で、「風景を楽しめる家にしてほしい」というものだった。その言葉を聞いたとき、空や眺望、街並みといった視覚的な風景だけでなく、地域で育ってきた記憶の中にある風景(思い出や愛着)も、同じように大切な「風景」として扱うべきだと感じた。敷地は倉敷市児島の高台に位置する。初めて現地を訪れた際、敷地から街を象徴する鷲羽山の観覧車が望めたこと、そして空の広さが印象的で、「ここに建物を建てない方がいいのではないか」とさえ思った。その中で、施主が幼いころから見慣れた住宅群や自然の風景を、これからの暮らしの重要な要素として位置づけ、設計を始めた。建物は敷地形状や方位によって決めるのではなく、「風景」に正対させる配置=「構え」とした。その結果、建物の四隅には性格の異なる4つの庭が生まれた。前面道路から人を迎え入れる「出迎える庭」、車と日常の動線を受け止める「車の庭」、空へと視線が伸びるプライベートな「家族の庭」、周囲と行き来できる「つながる庭」と質の異なる庭を計画。そして1階には個室や水まわり、2階に居間・食卓・台所を配している。中間領域となる展望台に出ると、瀬戸内海の水平線から山の稜線までがひとつながりで望め、遠くに見える鷲羽山の観覧車までもが、この敷地の一部であるかのように感じられる。ソファに腰掛ける、食卓で会話をする、台所でふと外を眺める。その何気ない動作のたびに、風景が暮らしのシーンへと静かに割り込んでくるような住まいを目指した。冬期には南からの日射を効率よく取得できる計画とし、年間の暖房需要を14kWh/(㎡a)に抑えている。夏期は比熱容量の高い断熱材を屋根に400mm施工し、 展望台には外付けブラインドを併用することで、風景に 大らかに開きながらも穏やかな温熱環境を保っている。年月を経て、周囲の風景や家族構成が変化しても柔軟に応じられるよう、1階部分は構造壁以外の壁を取り外せる計画とし、素材は時間とともに優しく変化(経年優化)していくものを中心に構成している。「見晴らしの家」は、「風景」に対して「構え」をもって応答し、眺望に優れたこの敷地ならではの環境との関わりを提案している。
