




補足資料



PROJECT MEMBER
照明計画に携わる夫妻と、子どものための住宅である。 夫妻は均一な明るさを良しとする一般的な住まいの光環境に違和感を抱き、陰りの中で光への感覚を鋭敏にするような住空間を望んでいた。 敷地は豊中市の住宅街の80㎡に満たない変形地。 周囲には緑が点在し、敷地の奥ほど光が落ち着く。この性質を生かし、窓を絞り込んで明暗を意識した住空間を思い描いた。 計画の出発点は建物ではなく夫妻の思い描く「光のあり方」だった。 洞窟の焚火や茶室の光窓などを手がかりに、「暗闇の中に光を灯し、その周囲に居場所をつくる」空間を目指した。 窓や照明の光が生みだす、時刻ごとの広がりと質感を豊かにしていくことから、間取り・仕上げ・住空間の形が決められていった。 変形敷地に沿った台形平面を配置し、残余のスペースを駐車場や緑あふれるアプローチとした。 低く抑えた玄関の先には弓なりの天井をもつLDKが広がり、日中は高窓からの自然光が天井を介して奥へと柔らかく届く。夜には天井端部の間接照明が穏やかな陰影を描き出し、必要最小限の照明で眩しさのない豊かな光環境を生み出す。 敷地の奥まった鋭角部には階段吹抜けと、本棚と床間を備えた三畳あまりの踊り場を設けた。スリット窓から朧げに壁を伝う光は、名栗加工を施された床に水面のような揺らめきを与え、日々の上下移動に豊かな情景をもたらしている。 2階には造作デスクを備えた書斎と個室を2つ設け、建具の開閉によって、個室は書斎とつなげて活用できる柔軟な設えとしている。 室内の壁や天井は明度の異なる三段階のグレーの漆喰で仕上げ、光が当たる南面の壁は明度を上げ、北面の奥に向かうほど明度を落とすことで、明暗の奥行を生み出した。陰影を湛えた台所や踊場からは、道路の向かいに茂る竹林や桜の彩りが際立って感じられる。 居間の照明は一括調光管理システムを採用し、季節や天候に合わせて最適な光環境をスイッチ一つで再現できる。 夕刻、高窓に浮かぶ弓なりの天井を見上げた子どもたちが「お月さまの家みたい」とつぶやいた。 その言葉は、光と陰が表情豊かに満ち引きする、この住まいの本質を言い当てているようだった。

