トンネルと台形

敷地は北海道中南部の苫小牧市に位置する。 1963年に世界初の内陸掘込港湾である苫小牧港が開港し、JR室蘭本線が港と並行しながら走っているため、一部の不規則エリアを除き、街のグリッドもそれらと並行している。敷地が接している北側の国道36号線も港と並行で交通量の多い道路である。札幌圏であり新千歳空港にも近接していることから、北海道を代表する工業地帯となった苫小牧は労働者が多く、人口は17万人を超え北海道4番目の都市となった。 苫小牧市は太平洋気候・海洋性気候のため、夏は涼しく冬の積雪量は札幌市の1/4と少ないが、1月の平均気温は−8.3°Cとかなり低い。 この建築は夫婦ふたりの住居である。 ご主人は船舶関係の仕事で不規則な生活であることから静かな生活と遮光・遮音可能な主寝室を望んだ。また、カーテンを必要としないプライバシー性の高い空間であること、収納量を最大にすること、ダイニングルームは不要、玄関位置を前面道路から分かり難くすること、夏にプライバシーを確保しつつバーベキューを楽しめる屋根付きの外部空間(テラス)、完全独立キッチン、2台分の駐車スペースを設けることなども要望された。 そこで、1階平面の真ん中にリビングルームを配置し、この空間を取り囲むように北側には食品庫・キッチン・洗濯収納室、東側には階段室、南側には玄関、西側には街のグリッドから45度傾けたトンネル状の風除室(テラス・ポーチなどの機能も兼ねる)を配置。2階平面の真ん中に主寝室を配置し、この空間を取り囲むように北側にはトイレ・洗面室・クローク、東側には階段室、西側にはクロークを配置した。 準防火地域であること、寒冷地であることから開口部は最小限でローコストとしているが、Low-Eペアガラスをツインポリカーボネートでサンドイッチしたトリプルスキンの開口部面積を大きくし、高断熱高気密とプライバシーを確保しつつ、柔らかな拡散光を室内へ導いている。風除室(テラスやポーチ)へ繋がるガラスドアを開けると、穏やかに街との距離感を保ちつつ内外が繋がる。 日本に限らず世界には多様なコンテクスト(状態)がある。だから「開くこと」と「閉じること」、「光」と「陰」への応答も多様に変化し、生物や植物のように多様となりそれぞれの地域特有の建築になるのである。 (五十嵐淳)

クレジット

  • 設計
    五十嵐淳建築設計事務所
  • 担当者
    五十嵐淳、樋口瑞希
  • 施工
    鈴木住建
  • 構造設計
    長谷川大輔構造計画
  • 撮影
    佐々木育弥

データ