
PROJECT MEMBER
料理好きのオーナーが、友人や客人を招き、余暇を愉しむための京町家改修プロジェクトである。 クライアントからは「一日の大半を過ごすキッチンを家の中心に据えたい」という要望があり、計画が始まった。 三間間口・築100年を超える町家の後方にはかつて工場が建っていたが、更地のまま放置されていた。 クライアントはゲストとの程よい距離感を大切にしたいと考え、客人用の離れを新築。母屋と離れの間に中庭が生まれ、必然的に中庭を中心とした住まいの構成となった。 クライアントの人生を共に歩んできたといっても過言ではないキッチンを、中庭に面した特等席に配置。 キッチンを起点にクライアントとゲストの会話が生まれ、かつては奥の間であった空間に新たな活気が宿る。そこには、クライアントの人柄を映し出すような温かい風景が広がっている。 キッチンには、IHやガスコンロなどの機器が表に現れない、スペイン製TPBtech社の天板を採用したオリジナルキッチンを設計した。 4層構造のワークトップの下にIHコンロを内蔵する構造とし、生活感を抑えた、家具のように美しい佇まいを実現している。 キッチン横の少し奥まった位置には、中庭とキッチンを見渡せる約1.5坪のコンフォートルームを計画。 四季の移ろいを感じながら庭木を愛で、雨音に耳を傾けながら静かに本を読む。檜で構成された屋根は母屋との空間的なシークエンスをつくり出し、寛ぐ人を柔らかく包み込む。 人々が集うキッチンから適度に距離を取ることでプライベート性を高め、寛ぎや仕事の場としても機能する、内と外の境界が曖昧な空間が生まれた。 中庭でひときわ背の高いヤマボウシは、庭師自らが山に入り選定し、移植した一本である。木々の葉が離れの白壁に幾重にも重なる影を落とし、時間とともに表情を変える。 母屋・中庭・離れの程よい距離感。 クライアントの町家に対する想いを最大限に汲み取りながら、そこに現代の技術を丁寧に落とし込み、古き良き佇まいを現代の生活様式へと昇華させた。 本計画を通して、京町家の持つ可能性をあらためて実感するとともに、その探求を今後も続けていきたいと強く願っている。
