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時間を纏い佇むもの|素材と光が語り合い、百年先もこの土地と共に息づく建築 日本の伝統的な大工技術と、自然と共に生きる建築の知恵を受け継ぎ、持続可能な建築を追求する素朴屋株式会社は、山梨県北杜市にて『藤武神社 社務所』を竣工いたしました。 山間に位置する藤武神社境内の一画に建つこの社務所は、時間とともに深まる自然素材の美しさを引き出すことを一番に考えられています。二方に開かれた大きな窓から光と風が通い、畳の上に柔らかな陰影を落とします。春の光、夏の緑、秋の風、冬の静寂−そのすべてが建築の一部として生きており、建築は自然の余白に佇む存在となりました。深い軒と職人の手で仕上げた質感の美しい漆喰壁のコントラストは、社務所としての凛とした佇まいをより一層引き立てています。 この建物の骨格をつくるのは、石場建てと二方転びの柱による架構です。 二方向に均等な傾きをもつ柱と、石と木の自然素材が支え合う建築は、神秘性や潔さ、伝統を語り継ぐ神社の隣に寄り添いながら、百年、二百年の時を刻み自然と共にある建築となるよう設計しました。 架構|二方転びと石場建て 二方転びは水平・垂直を基準とする通常の 木造軸組と異なり、柱が傾く(転ぶ)ため、一本一本の材の刻みを事前に三次元的な角度を計算した上で墨付けし、柱が落ちる位置を原寸に書き起こしながら加工を進めました。 現代の一般的なプレカット工法ではなく、大工による手仕事だからこそできる技です。 構造的には、一本の柱にかかる荷重は斜方向に分散し、構造体全体が外向きに踏ん張るような安定感を生みます。さらに石場建てとして、基礎と固定しないことで揺れを受け流す免震的な仕組みを利用し、高い耐震性と耐久性を持たせています。 また屋根にはコールテン鋼を採用しており、時間を刻むように変化していく錆が建築の表情を深めていきます。 自然素材の持つ簡素な神秘性を纏う 室内を見上げると、八ヶ岳産の唐松を贅沢に使用した美しい小屋組が広がります。職人の手によって整えられた束や赤松の太鼓梁が簡素な造形美を生み出し、空間全体に木の香りを感じることができます。また、素朴屋が自社で製作した木製建具によって、外の景色を内部空間に取り込み、建具を開け放つと心地よい風と光が通り抜ける開放的な空間が広がります。この場所で真剣な話をしている時にもふと外の景色や風が流れ込んでくるように。そんな願いも込められています。 隠岐島の歴史にインスピレーションを得て この建築のモチーフとなったのは、遠く離れた島根県・隠岐島にある「水若酢神社」の土俵です。隠岐島は、鎌倉時代に後鳥羽上皇が流された地として知られ、和歌や建築、相撲などの豊かな文化が根付いています。設計を手がけた素朴屋代表の今井久志は、構想段階でこの島を訪れ、神社の土俵が持つ神秘的な佇まいにインスピレーションを受け、質素で凛とした空間を創り上げました。 転びのある屋形がつくる緊張と安らぎの混在。そして開放的な窓から入る光は室内の表情を絶えず変化させ、数値化できない空間の豊かさとして確かに存在し、職人の手が介在した一度きりの刻みが、建物に時間に耐えうる内的な密度をもたらしています。 時を経て、この場所が日常から切り離されたような静けさを纏い、そして百年先も自然とともに佇む建築となることを願っています。
