




補足資料







PROJECT MEMBER
入り組んだ高級住宅地の奥に、そのヴィラは佇んでいた。サイゴンの喧騒から離れた900㎡の広大な敷地のそのほとんどは豊かな庭を含む外部空間となっている。 20年前に建てられたというこの建物は、約3mの既存高低差に合わせるように計画され、複雑な段差とそれによって分節された個室群をもつ迷宮のような様相を呈していた。 ここに、ベトナム発のピザレストラン”Pizza 4P’s”の新しい旗艦店をつくる。 <ローカル・リジェネラティブ> 4P’sはこれまで15年以上、食を通じてサステナビリティを追求してきた。そんな彼らの次なる一歩は、”リジェネラティブ"ー環境を維持するだけでなく回復させるレストランをつくることだった。 しかし我々は、そうしたイデオロギーを西洋からわざわざ輸入しなくとも、同様の考え方はこの国の人々の暮らしの中ですでに実践されているのではないかと考えた。そこで、食や農に限らず、生活のなかで培われてきた知恵を学ぶリサーチとワークショップを重ね、設計に取り入れることを提案した。 今すでにあるものを直し、使い倒すこと。人間以外の存在や自然環境と対話すること。場当たり的に適応すること。世代を超えた記憶の蓄積を思いだすこと。事後的な介入を許容すること。そうして得られた知見は、近代的なアプローチが切り捨ててきた要素をすくい上げるようなものだった。そしてそれらを、以下のシンプルな所作に還元し場を構成していった。 As it is / そのまま使い倒す 新しくつくらずに、そこにすでにあるものから発想すること。広大で複雑きわまりないこの敷地においては、あるがままを受け入れ、使い倒すことを意識的に行った。 室内外にまたがるレベル差は、より小さな面に細分化しながら丁寧に繋ぎなおす。既存の建物壁面や敷地を囲う塀の表面は、新しい仕上げで覆い隠さずに、様々な方法で削り、剥がすのみである。かつてのスイミングプールの壁面も、タイルを剥がしたモルタル跡をそのまま残し、象徴的な半屋外エリアの一部としている。 Earthwork / 土に還す 繋ぎ直された内外の水平面は、大小のファームからレストランへ連続する地表面として構想された。そこでは、生物が根付き、呼吸することができる。 既存の人工的な床素材の多くを撤去し、土、もしくは土由来の素材に変容させた。土、砂、解体した壁の瓦礫、レンガやテラコッタ、土を混ぜた磨きセメントとテラゾー、洗い出しコンクリートなどを用い、敷地面積に対して約70%が土に還った。 Shading / 影をつくる 日射の強烈な熱帯気候では、地表に落ちる影があまねく生物の生存環境を担保している。そしてそれらは、機械的な仕掛けではなく、葉や膜などの軽く場当たり的な素材で簡単につくられるのが常だ。 外部空間に林立するスチール柱は、ココナッツの葉、農業用ネット、ステンレスワイヤーなどの"弱い”屋根面を支える。これらは、保存された既存樹木の枝葉とも重なり合い、ファームとその間を縫うように上がる小径に、多層的な影を拡げる。 <Slow, Grow, Care> この場所は、今後もファームの継続的なモニタリングやリサーチなど検証と介入を重ね、手間をかけながら、様々なプレイヤーが時間をかけて育てていくものである。 設計者や施工者、事業者はもちろん、食と農に関するワークショップや展示、食体験を通してこの場にかかわる人々、そしてファームに根付く植生、地中・地上に巣をつくる虫や鳥、水草と共生する魚たちなど、人間/非人間を超えた関わりあいの中で、時間とともにレストランが成長・変化していく。 ただ消費するだけではなくそこに参加し、5年、10年かけて生き続けられる場所ー私たちがこの国から学んだローカル・リジェネラティブな知恵が、そこへと向かう端緒になると期待している。

