
オフィスというものは企業自身を体現したものではならないと考えている。より良い執務環境はもちろんのこと、オフィスは社外の人々に対するインターフェイスでもあるため、オフィスデザインの重要性はデザイナーとしても非常に高いものであると感じている。 今回オフィス設計を依頼された企業は近年急成長を遂げているIT系企業である。彼らのオフィスは活発で新しいものを生み出す勢いとエネルギーで溢れ、対照的に彼らから生み出された製品は高度で熟練の域まで達した繊細なものであった。 アイディアとは最初は粗削りの原石のようなものから始まり、それを磨き上げていくことで徐々に洗練されたモノへと完成していく。そういった新たなアイディアを生み出す思考プロセスが体現されたような企業であった。 新オフィスにエントランス機能、ギャラリー機能、ラボ機能の大きく3つの機能が要求された。また視察や顧客の来社があるため、見せることを前提とした研究所のような雰囲気を求められた。 我々は以上の要望と企業イメージを新オフィスの空間で体現することを目指した。 そこで我々は既存内装を一度荒々しいスケルトンの状態まで戻し、それぞれのエリアに新規の天井や壁、家具などを挿入していった。ステンレスパネル、金属製の角パイプ、FRP製のグレーチング、金属メッシュ、カラーガラスなど、精巧につくられた工業材料を主要材料とし、それらをスケルトン空間に挿入することで、粗細のコントラストが生まれる。 このコントラストが潜在的に荒々しさと繊細さが同居する企業自身を体現する要素となる。こうして生まれた研究所のような、ギャラリーのような、オフィスのような様々な要素が同居したこの新オフィスが、社員の感性を刺激し新しいアイディアの原石が生まれるきっかけとなれば幸いである。