
「サテライトワークの居住環境と古民家の再構成」Sansanは,徳島県神山町に2010年よりサテライトオフィス神山ラボを設け,その敷地には築100年から70年程の古民家の母屋,納屋,牛小屋が程よい距離を保ち,建っている.オフィスとして使われるNAYAとKOYAはすでに整備されており,宿泊・研修棟である築約70年のOMOYAの居住環境を改善し,ワーカーが快適に過ごせるように改修することが,今回の要望であった.3棟に囲まれた中庭には大きなサクラの木があり,魅力的な場所であるにも関わらず,OMOYAのキッチン裏に面し,その魅力が活かされていなかった.また,家の北側に位置する玄関土間は薄暗く,来訪者は西側に駐車してKOYAとOMOYAの間を通り抜けてキッチンの勝手口からアプローチするため,玄関の役割を失っていた.そこで,キッチンを新しいミーティングスペースへと改装し,新しいOMOYAの玄関をKOYAとNAYAに繋がる中庭の桜テラスに開いた空間とすること,玄関土間を新しい土間キッチンとすることで,滞在者にとって魅力的な居場所となるよう,役割の交換を行った.さらに,階段を東側の3畳寝室に納め,廊下や南寝室の壁を取り払い,単純な田の字型の平面へと再構成し,西側の和室は南北それぞれが独立した寝室としても使えるような,ひと繋がりの座敷とした.土間キッチン・ダイニング・和室を調理・食事から研修へ,一体となる居場所として変換した.大部分の屋根,外壁,木製建具のほとんどを既存のままとし,柱・梁・竹木舞土壁・天井・長押・鴨居などもできる限り残し,新しく付加する部分と古い部分との調和を心掛けている.古民家の持つ田の字と付加空間プランの交換可能性を試み,空間を繋げ直すことで,現代のオフィスワーカーの居住,宿泊,研修に応える建築環境を創出した.生まれた時から古民家に住んだことのない世代に対して,その歴史を伝えると同時に,未来の仕事や生活をイメージできるような改修を試みた.