尾張旭の住宅

ビルディングタイプ
戸建住宅

DATA

CREDIT

  • 設計
    D.I.G Architects
  • 担当者
    吉村昭範
  • 施工
    誠和建設
  • 構造設計
    藤尾篤建築構造設計事務所
  • 撮影
    谷川ヒロシ

遠くの風景と庭をつなぐ「切通し」  愛知県尾張旭市の古い住宅地に建つ家族4人の住処である。敷地は緩やかな起伏のある高台の頂きに位置している。前面道路の向こう側には小さな近隣公園があり、さらに奥には住宅地越しに大きな森林公園の緑と広く開けた空を望むことができる清々しい住環境である。また、この住宅地には法規上の制約から壁面を1mセットバックしなければならないので、それぞれの住宅の隣棟間隔が広く、通りから少し見通しがよいことが特徴だった。  そのような眺望やほどよい見通しのよさを最大限に活かし、敷地と遠くの風景をつなぎたいと考えた。そのためには、隣地境にできる壁面後退による2mの隙間に呼応するように、敷地の真ん中を横断する「切通し」のようなヴォイドがあるべきではないか考えた。そこで、敷地に2つのボリュームを配置した。二つのボリュームは、居間や子供室のある「賑やかなスペース」と、寝室や客間や水回りのある「静かなスペース」の2つに対応している。そして、2つのボリュームの隙間は、前庭-「通り庭」-中庭として屋外-屋内-半屋外が連続する「切通し」のヴォイドになっている。 「切通し」は、街からすると隣地境の幅2mの隙間空間と並んでいるけれど、人が使うための隙間であり、また伝統的な古い町屋に見られる通り庭よりも少し街に開かれた存在である。つまり、人を迎え入れる門のようでもあり、手前の道路と奥の中庭との視線を大きくつなぐことによって、中庭や玄関越しに人々の気配を外からどことなく感じられる「通りからの余白」とも言えるようなものだ。  住居のなかでいえば、2つのボリュームに分けて切り通すことで用途は分けているようであるが、むしろ「切通し」が2つの特性のちがう住棟同士をつなぎ、中庭と玄関ホールをつなぎ、そして、遠くの景色と室内をつなぐ結び目となる。実際に、家族が日々暮らすなかで、中庭に出て寛ぐとき、階段を登るとき、ふと手前の公園に出たかのような感覚を経験する。「切通し」のような緩衝空間があることで、部屋と部屋のあいだの距離感が少しだけ近くなり、街と部屋との距離感は少しだけ遠くなる。この距離感の些細なズレによって、住まい手は住居のなかに居ても周辺の街や緑とともに暮らしていける。

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