築50年を超えるRC5階建て商業建築の以前倉庫であった1階の面積僅か60㎡程度の空間をリノベーションし、5店舗を構えた。 街とは切り離された従前のアミューズメントパーク的な横丁とは違い、新宿弐丁目界隈のコンテクストの中にしっくりと組み込まれた構成ゆえ、比類なき空間となった。 2021年7月1日にオープンしたが、前日には2丁目系人気ユーチューバーによる取材、撮影が行われ、界隈の個性的な人たちが集まった。 靖国通りから2丁目のメインである仲通りへ曲がり、2本目の路を左に折れ20m程歩いたところに赤い丸看板の「弐」とLEDプロジェクターロゴライトによるサイン「新宿弐丁目横丁」がノスタルジックなモルタルの床に投影されているのが目印となる。モルタルの床を歩き、大きな木の引戸の前に立つとLGBTカラーのサインが出迎える。引戸を開いた向かいの壁には横丁の案内板が目に入る。サインや案内板には漢字、英文字、ひらがな、カタカナがある中、統一感のあるフォントデザインにまとめた。 幅狭の入口からは店舗の全貌ははっきりとはしない。「奥に何があるんだろう?」と期待感を募らせつつ、高さ3.3mある空間の黒塗装された天井に掲げられた漆黒の夜空に浮かぶような無数のベトナムホイヤンランタンに誘われ、路地のような空間を奥へと進むと、店舗カウンターが向かい合う、横丁の辻のような空間を体感する。 カウンターはシナ合板に木部用着色剤アルコールステインを施し、壁と床はモルタル金鏝仕上げ、カウンターの足掛けに縞鋼板黒皮仕上げ、吊り棚のフレームには市販の穴あきLアングル、棚板はシナ合板を用いた。使用素材には特別な素材を用いないことに徹底して拘り、誰しもを受け入れる気軽さを意図した。 ひとびとが触れる場所の素材には日常性を、天井には無数のランタンが浮かぶ非日常性、祝祭性を感じさせる空間的なアンサンブルを企てた。

クレジット

  • 設計
    一級建築士事務所 岸雄一郎+Tobitaka Design Office
  • 担当者
    岸雄一郎, 高橋慎治, 坂下彩花
  • 施工
    (有)市川工業
  • 撮影
    岸 雄一郎

データ