
この家のデザインテーマは「テキスタイル」である。 このテーマに至った経緯は、建主であるIさん家族の夢にある。以前からテキスタイルを趣味でコレクションしていたIさん家族は、新居をつくるにあたって「我が家にテキスタイルのギャラリースタジオを併設したい」という想いを話してくれた。大好きなテキスタイルの展示会、子どもたちを招いたワークショップ、地元作家と連携したスタジオなど。そのとき語られた夢を、我々はそのままカタチにしたいと思った。 そうしてテキスタイルの鮮やかさと、暮らしの楽しさが重なり合う空間を目指して設計を進めた。テキスタイルを自由に吊るせるギャラリーの天井ルーバー。テキスタイルを吊して通行人の目を楽しませる大窓。天井高も脚立に載って届く高さから逆算した。ここでは平時のリビングが会期中にはギャラリーとなり、ダイニングテーブルはワークショップテーブルとなる。建具を引けばギャラリーを生活空間から独立させることもできる。そのときの使途に応じてフレキシブルな空間設定が可能になる。 そしてその「テキスタイル」というデザインテーマは、機能面だけで留まらない。その空間構成自体も「編む」という仕草からインスピレーションを得ている。糸を引っ掛けて、掬い上げ、捻って、次々と糸を通してゆく糸を編むときの動き。その動きを人の動線や人との関係に見立てて建築化した。上下でクロスする動線、円を描く水平動線、螺旋状に上る垂直動線など、編み込まれた動線によって立ち上がった空間は、まるで溌剌としたテキスタイルのように、躍動感を纏いながらひとつの纏まった全体像を獲得する。 建築の豊かさから建主の夢まで丸ごとこの空間のなかに編み込んだ優しい器なのである。