
PROJECT MEMBER
敷地は愛知県名古屋市緑区定納山の新興住宅地の一画。 定納山という小高い山の造成により生まれた段上の地形、道路と宅地部分に設けられた高低差、第1種低層住居専用地域の法規制による建蔽率40%、容積率80%、北側斜線、外壁後退1.0Mといった与条件が地域固有の建物形状や敷地の空隙に寄与し街並みに一定の規律を与えている。一見均質に見えるその街の風景も、法規制と環境が織りなす固有の細かいコンテクストの集積によってかたちづくられている。 本計画はこうした与条件によって導かれる外殻の中に、街並みの規律性を住宅の架構としての骨組みに変換することで、新興住宅地における一つのバナキュラーを試みている。それは、街のルールをそのまま模倣するのではなく、似通った住宅群が生み出す並列的な秩序感を架構の構成原理として捉えることである。 法規制から敷地には間口4間、奥行5間が取れる外殻が立ち上がり、北側斜線の兼ね合いで北側の1間は高さを抑えて計画する必要があった。そこで4間角のボリュームに1間を足す構成で軸組みを考えていった。4間角には住まいにおける共有性が高い用途を落とし込み、付属する1間には水回りや収納といった閉じた空間として用いた。 4間角の構成は、住まいとして馴染みがある2間を基本単位とし軸組みの規律性を保持するため間仕切り壁は設けず家具等のボリュームで住まいの拠り所を作っていく事にした。 また、梁を表し架構を市松状に構成することで、空間に明確な方向性を持たせず、内向的でありながら同時に外向的なフラットさを生み出している。 他の要素がない2間角で構成された規律性がある軸組みと市松状の梁、この構成により骨格が街並みの一部として溶け込みながら、周辺との関係性を強調することを意図した。 空間ごとに強い分節を設けるのではなく、領域のゆるやかな連続性を意識的に保っている。架構を介して曖昧に連なる空間群は、明確な区切りを持たずに変化する活動の受け皿となる。特に2階では、パーソナルな部屋を最小限に抑え、共用空間が架構を押し広げるように配置され、住まいにおけるパブリックとプライベートの関係を再考する契機となっている。 外殻と内部骨格の連動によって、街の規律性を住宅の身体に宿しながらも、住むという行為に多様な余白と重層性を持たせた本計画は、新興住宅地における住まいのあり方を問い直す一つの試みである。