




補足資料



PROJECT MEMBER
京都の老舗蕎麦屋・晦庵河道屋の移転リニューアル計画である。 長年にわたり育まれてきた同店の歴史を、形として保存するのではなく、数寄屋建築に内在してきた空間の作法や空気感を読み取り、「引き算の美学」として継承し、現代の飲食空間へ翻訳することを設計の主題とした。 旧店舗が有していた要素のうち、特に重要と捉えたのは、陰影のある空気感、自然素材の質感、そして奥庭へと抜ける視線である。なかでも奥庭は、店の記憶を象徴する風景として、新店舗においても空間構成の核に据えた。 移転先となる町屋の解体時に生じた土を再利用した土壁や、旧店舗の三和土を参照した左官床、よしず天井、玄関建具意匠の継承など、素材の履歴を空間に織り込むことで、時間の連続性を担保している。 玄関の待合空間では、旧店舗の前庭の構えを現代的に読み替え、2階床の一部を撤去して吹き抜けを設けることで、限られた町屋空間に光と余白を導入した。足元には茶室の所作を参照した檜の腰掛待合を据え、迎えの空間として再構成している。 客席は奥庭への視線軸を基準に柱位置を整理し、最小限の補強によって開放性と連続性を確保した。解体時に顕在化した低いレベルの構造梁に順応したよしず天井は、奥庭への軸線を強調する装置として機能している。照明計画は『陰翳礼讃』を手がかりに光量を抑え、素材の表情と陰影が主役となる空間を目指した。 本計画は、老舗の歴史を固定化するのではなく、日常の営みの中で静かに更新され続ける建築のあり方を提示するものである。